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パウエル議長、議会証言で0.25%利上げを明言
梅澤 利文
2022/03/03

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概要

今週のイベントの中で注目度の高かったうちの1つはパウエル議長の議会証言です。証言内容は全体的にはFOMC参加者の最近のコメントと整合的です。やや異例だったのは、利上げ幅の数字として0.25%を具体的に表明したことです。ただ利上げ幅を明確にしたことで、市場の不透明感を払拭するという効果があったように思われます。



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FRBパウエル議長議会証言:異例、3月会合における0.25%の利上げを明言

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は2022年3月2日、米国下院金融委員会で、半期に一度の議会証言に臨みました。パウエル議長は3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合での金融政策に関連する質問に対し「0.25%の利上げを支持する提案をしたい」と具体的な利上げ幅に言及しました。

パウエル議長の証言内容が明らかになるに伴い、市場では株式市場が上昇する一方、国債は長期、短期セクター共に利回りが大幅に上昇(価格は下落)しました。

どこに注目すべきか:議会証言、0.25%利上げ、バランスシート縮小

ロシアがウクライナへの軍事侵攻したことなどを受け、米国国債市場の方向感が定まりにくくなっていました。先月前半には3月のFOMCでは0.5%の引き上げがフェデラルファンド(FF)金利先物市場に相当程度織り込まれていました。しかし、ロシアの軍事侵攻を受け、金融引締め姿勢の後退、もしくは極端なケースでは3月のFOMCでは利上げを見送るとの観測さえ一部に台頭しました。

このやや極端から極端に振れた思惑の中で、パウエル議長は具体的な利上げ幅を支持する提案をすることで、しっかりと真ん中にアンカーを降ろした格好となりました。

今回の議会証言でパウエル議長は0.25%の利上げ幅と、FRBのバランスシート縮小に3年強かかることを示唆したことから、金融政策について2つの数字を述べたことが目新しい点となりました。ただ、全体としてみると地区連銀総裁など他のFOMC参加者の発言と整合的と見られます。ウクライナ情勢による影響には配慮しながらも、コロナ禍で導入した超金融緩和を正常化させる方針は維持すると見られます。

最大の懸念は物価で、インフレ目標を大幅に上回っていると指摘しています。最近、インフレ率として水準が高い消費者物価指数(CPI)が注目されますが、FRBが物価指標として重視しているコアPCE(個人消費支出)価格指数もインフレ目標を大幅に上回っています(図表1参照)。

一方、パウエル議長はインフレが年内にピークを迎えるととの予想を述べています。そのうえで、賃金動向などにより思ったようにインフレ率が低下しない場合には0.25%を上回る利上げを行い、より積極的に動く準備があると述べています。なお、複数のFOMC参加者が0.5%の利上げの必要性を述べていますが、その前提条件はインフレが過度に進行した場合となっています。あくまで今後のインフレ動向次第ですが、0.5%の利上げは今後の課題として先送りされた格好です。

なお、ウクライナ情勢については、米国経済に及ぼす短期的な影響は非常に不確定と述べるにとどめた印象です。議員の質問の中にはロシア中央銀行に対する制裁についてなどもありましたが、制裁を課しているのは政治でFRBではないとの姿勢を示しています。経済制裁の結果としてインフレや米国経済に及ぼす影響を踏まえ、今後の金融政策運営を慎重に進める姿勢を示したものと見られます。

次に、金融政策のもうひとつの注目点であるFRBのバランスシート縮小についてです。FRBは、債券購入縮小(テーパリング)から今後はバランスシート縮小へと政策をシフトさせますが、その具体策についてFRBからの情報は限定的でした。

今回、2つの点にヒントが与えられました(依然明確ではないですが)。1点目は3月のFOMCではバランスシート縮小の最終判断には至らない可能性が示唆されました。利上げと同時に縮小という前のめりの観測もありましたが、それよりは若干遅れそうで、6月前後のFOMCである可能性が高いように思われます。

2点目はバランスシートの正常化に向け縮小を行う期間ですが、3年強という数字が可能性の1つとして述べられました。また、バランスシート縮小を終了させるのは、経済や金融システムの維持に必要な規模の準備金の水準などから判断するとしています。前回のバランスシート縮小の倍程度のペースで縮小を進めた場合、3年でコロナ禍前の規模に近づくと思われ、恐らく、市場の当面の着地点の想定に近いと考えます。

バランスシート縮小に関する市場との対話はこれから本格化することが想定され、注意が必要です。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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