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中国経済指標、出足は良いが課題は山積み
梅澤 利文
2022/03/15

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概要

中国の主要経済指標である鉱工業生産、固定資産投資、小売売上高は市場予想を上回る改善となりました。経済活動の制限などが数字を押し下げると市場では予想されていましたが意外な結果でした。ただ、ウクライナ情勢や中国で拡大する新型コロナウイルスは景気にマイナス要因で、中国の成長目標5.5%前後の達成はハードルが高いと思われます。



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中国主要経済指標:1~2月の生産、投資、消費は市場予想を上回る堅調な動き

中国国家統計局が2022年3月15日に発表した1~2月の鉱工業生産は前年同期比7.5%増と、市場予想の4.0%増を上回り生産活動の回復が示されました(図表1参照)。投資の動向を示す固定資産投資は前年同期比12.2%増と、市場予想の5.0%増を大幅に上回りました。

消費の動向を示す小売り売上高は1~2月が前年同期比6.7%増と、市場予想の3.0%増を上回りました。

どこに注目すべきか:中国主要経済指標、ゼロコロナ、ウクライナ

北京五輪開催中の生産活動の制限や新型コロナウイルスに対するゼロコロナ政策の影響で減速すると見られていた中国の1~2月の経済活動は力強さを見せました。

生産活動では、ハイテク分野の製造業が引き続き高い伸びを維持しました。また、昨年全般に不調であった自動車生産が足元回復していることも生産活動の押し上げ要因と見られます。

次に、固定資産投資で投資活動を見ると改善が見られました。昨年後半の低水準から拡大が期待されている今年のインフラ投資は、地方政府などにけん引され投資が拡大しました。ただ、不動産市場の回復は鈍く、1~2月の住宅販売は前年同期比でマイナス22.1%の減少でした。

年初中国経済が示した想定以上の回復の背景に、昨年後半からの金融面での当局の下支えが考えられます(図表2参照)。先月は季節的要因で金融支援が抑制されていましたが、今後も金融政策などによる景気てこ入れが想定され、年前半には預金準備率の引き下げなどが考えられます。なお、足元では、当局が小幅ながら人民元安誘導を試みるなど、新たな動きも見られます。

中国当局が景気支援を維持する背景は中国がいくつかの重い課題に直面しているからだと見られます。対応を間違えると、今年の成長目標の達成も危惧されます。

問題として、まずあげられるのが新型コロナウイルスの感染再拡大です。広東省深セン市など経済の重要拠点や吉林省で事実上のロックダウン(都市封鎖)、いわゆるゼロコロナ対策が導入されています。経済活動への制限が厳格なゼロコロナ対策に見直しを期待する声はありますが、当局はこれまでと大差ない、同様の対応をとっています。市場では中国の経済見通しを引き下げる動きが見られます。

次にウクライナ情勢です。原油など資源価格の上昇だけでも中国経済には痛手です。その上、ロシアとの関係も重い課題となっています。ロシアに肩入れすれば西側から経済制裁を受ける恐れがあるからです。なお、今後の中国の動きを占う上で、14年のロシアによるクリミア半島侵攻における中国の対応を見ると、基本スタンスとして、中国は中立姿勢を維持しました。例えば、当時の西側諸国によるロシアに対する経済制裁に中国は参加しない姿勢を維持しました。

現局面では中立姿勢を維持しつつ、和平を促進できるかが問われそうです。ロシアがウクライナ侵攻した後で初となる、米国と中国の高官による対面会談が14日に開かれました。米国はサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、中国は外交を統括する楊潔篪共産党政治局員が参加しました。楊氏は、中国がウクライナ和平協議の促進にコミットしていることなどを表明しています。しかし、会談に先立ち、米国側は、ロシアが中国に軍事物資供給の要請を行った可能性を指摘しています。中国の軍事関与をけん制したと動きと思われます。やはり米中の緊張感は高いようです。中国は独自の中立を維持できるか、難しい対応を迫られています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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