Article Title
日銀、指値オペ長期化でとりあえずサプライズ演出
梅澤 利文
2022/05/02

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

日本銀行は4月27~28日の金融政策決定会合で、概ね金融緩和政策を維持しました。ただ、指値オペについては応札が見込まれない限り実施するとし、10年国債利回りの上限を明確に設定するサプライズを行いました。市場は円安で反応しました。政治からは急激な円安進行は好ましく無いとの声も聞かれますが円安の先行きは不透明と見られます。



Article Body Text

日銀金融政策決定会合:金融緩和政策を維持すると共に、指値オペを事実上常態化

日本銀行は2022年4月27~28日に開催した金融政策決定会合で、市場予想通り大規模緩和を維持する方針を決定しました。日銀は長期金利を0%程度、短期金利をマイナス0.1%に誘導する長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)は維持するとしています(図表1参照)。

一方、日銀が無制限で日本国債を購入する指値オペ(公開市場操作)については市場の想定外に「10年物国債金利について 0.25%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施することとした。」と、日銀の政策方針を示した「当面の金融政策運営について」の中に明記しました。

どこに注目すべきか:指値オペ、応札、展望レポート、上限、円安

今回の日銀の金融政策決定会合でのサプライズは指値オペの長期化です。日銀が無制限に国債を購入することで(対象とする)10年国債利回りを、上限(約0.25%)を下回る水準に維持する指値オペは、当初は1日でしたが、21年3月に連続指値オペを制度として導入しました。ただ、指値オペを実施したのは今年3月末でした。今回は、明らかに応札が見込まれないなら実施しないが、そうでなければいつでも指値オペを実施するとして、事実上指値オペを常態化させることとしました。

指値オペの常態化は、別の見方をすれば日本の10年国債利回りは上限が設定(0.25%)されたことを意味します。日銀の金利上昇抑制姿勢の強さを再確認したことから、市場は当面、この上限を試すことは控え、上限ありきという中での取引となることも考えられます。

次に、日銀のインフレ見通しを今回の経済・物価情勢の展望で確認すると、22年度の物価上昇率見通しを1.9%と前回の1.1%から引き上げました。一方で23年度は1.1%と前回から据置きました、また、今回初めて発表した24年度予測は1.1%を見込んでいます。日銀は従来から、現在の物価上昇はコスト要因による一時的なものという説明をしてきましたが、展望レポートの予測はこの説明を支持する内容でした。

なお、連休の谷間の5月6日には先行して東京都の4月の消費者物価指数(CPI)、20日には全国のCPIが発表されます。携帯電話値下げの影響の低下やエネルギー価格上昇を反映して2%前後の水準が見込まれています。

なお、今回の会合では金融政策の将来の指針を示すフォワードガイダンスの変更は限定的でした(図表2参照)。筆者も含め、日銀が今回の会合で国債利回りの変動幅を変更することはなく、あるとすればフォワードガイダンスの変更に期待がありましたが、ほぼ変更が無く、むしろ現状維持に近い一方、指値オペの常態化が予想外に強化されました。

日銀が金融政策を変更しない、もしくは出来ない背景として財政政策を影ながら間接的に下支えしている必要性や、日本の物価の下方硬直性など日銀だけでは解決が難しいことから、日銀だけの問題ではないように思われます。

したがって、当面現状維持が見込まれる一方で、いくつかの疑問も残ります。例えばそもそも何故0.25%が上限なのかです。これまでも日銀は変動幅を調整してはいますが、コロナ禍の20年前半などは長期金利はもっと低い水準でも良かったのかもしれません。一方、現局面のように市場に金利上昇圧力が残る中、逆に指値オペを強化しています。これで出口戦略が一層わかりにくくなったような気がします。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


中国経済対策で財政政策は真価を発揮できるか?

米CPI、主役の座を奪い返すまではなさそうだが

インド中銀、金利を据え置きながら方針は「中立」へ

毎月勤労統計に見る日本の賃金動向と金融政策

9月の米雇用統計は堅調、景気後退懸念払しょく

ECB理事会プレビュー、経済指標は利下げを支持