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フィンランドのNATO加盟の動きと中立化政策
梅澤 利文
2022/05/17

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概要

フィンランドとスウェーデンはロシアの軍事戦略上、重要な地域でもあるため、両国は中立化政策によりロシアとの関係を維持してきました。しかしロシアのウクライナへの軍事侵攻を目の当たりにして、両国はNATOとの軍事同盟に方向転換することを表明しています。ロシアの軍事侵攻は歴史の歯車を動かしているようです。



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NATO:フィンランド、スウェーデンが加盟を表明、歴史的転換点となる動き

フィンランドのニーニスト大統領とマリン首相は、2022年5月15日に記者会見し、北大西洋条約機構(NATO)に加盟申請すると共同で表明しました。フィンランドのハービスト外相は地元紙に5月18日に正式にNATO加盟を申請する可能性もあると述べています。

スウェーデンのアンデション首相は16日、NATOへの加盟申請を決めたと発表しました。スウェーデンは約200年にわたって軍事的な中立を維持してきましたが、ロシアのウクライナ侵攻を受けて安全保障政策を転換する動きです。アンデション氏は記者会見でフィンランドと歩調を合わせる形で数日中に申請する意向を述べています。

もっとも、NATO新規加盟には既存の全加盟国の承認が必要ですが、加盟国のトルコは難色を示しています。

どこに注目すべきか:中立化政策、NATO加盟、軍事同盟、EU加盟

北欧のフィンランドとスウェーデンが長期間にわたり維持してきた軍事的な中立化政策から、軍事同盟へと方向転換する動きとなっています。両国の加盟承認は、現時点ではトルコなど反対姿勢を示している国もあり今後の展開を待つ必要があります。また、加盟申請後、正式に加盟となるまで一定の期間は必要です。それでも両国がNATO加盟申請を正式に表明したことは歴史的イベントです。この背景はロシアによるウクライナへの軍事侵攻です。ロシアのウクライナへの軍事侵攻はフィンランドとスウェーデンの世論を動かし、両国の政治を動かす結果となりました。

例えば、フィンランドでは、軍事侵攻前の2月の世論調査においてNATO加盟の支持率は概ね3割を下回る水準でした。しかしロシアがウクライナへ軍事侵攻した後の3月には6割を上回る支持となっており、これまで支持されてきた政策である中立化からの脱却が見込まれます。そこで、フィンランドを例に中立化の流れを振り返ります(図表1参照)。

最初に中立化と中立国の違いを述べます。中立国は条約など多国間のルールで承認されたもので、スイスやオーストリアなどが該当します。一方、中立化は戦時と平時を問わず、国際社会で外交上、特定の相手に加担しない立場です。外交政策上の方針とも位置づけられそうです。

フィンランドがロシアから独立したのは1917年です。しかしロシア(ソ連)から軍事的脅威を受け続けたのは、冬戦争から継続戦争と戦争が続いたことからも明らかです。第2次世界大戦末期にはソ連と休戦協定を結びますが、そのためにはそれまでフィンランドを支援(共同参戦国)してきたドイツと戦う必要に迫られるなど複雑な対応が求められました。

フィンランドは大戦後対ロシア(ソ連)政策は中立化を基本としてきました。ロシアと1300キロに及ぶ国境を接するフィンランドにとり、一方で不凍港確保のためバルト海を重視するロシアにとっても中立化は心地よい政策と思われます。

フィンランドは政治と経済では西側と近いものの、軍事的には中立を維持していましたが、大きな転機となったのはソ連崩壊です。その後の動きとしてフィンランドは欧州連合(EU)と自然に結びつきを強めました。フィンランドはEUの経済統合の代名詞である通貨ユーロの当初からの導入国です。またフィンランドは99年後半には初めてEU議長国をつとめるなど、しっかりとEUの一員として根付いていましたが、それでも軍事的にはEUと距離を置き中立化を維持しました。

なお、90年代終わりに激化したコソボ紛争で、NATO軍は国連を無視するかたちでの空爆など武力行使を実施しました。中立化政策を維持するフィンランドはコソボに介入するセルビア政権への説得に参加することで、NATOの空爆をある意味間接的に停止させています。このようなイベントもフィンランド世論がNATO加盟に否定的だった背景と見られます。

ロシアはNATOの東方拡大懸念を口実に、NATO非加盟のウクライナへ軍事侵攻しました。この結果、軍事上重要なフィンランドとスウェーデンが中立化政策から転換を表明したことは、ロシアに思わぬ誤算となる可能性ありそうです。



梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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