Article Title
日本のインフレ率も上昇傾向だが
梅澤 利文
2022/05/27

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

全国のCPIに先行して、5月の東京都区部・消費者物価指数(CPI)が発表されました。総合CPIは日銀の物価目標を超えていますが、これまでのエネルギー価格の上昇などを反映しているうえ、足元では上昇に一服感も見られます。また、賃金上昇を伴う物価の安定的な上昇には程遠く、日本の金融政策は当面現状維持との見方が大勢と思われます。



Article Body Text

東京都区部CPI:5月は総合CPIが先月と変わらず前年同月比2.4%と2%を上回った

 総務省は2022年5月27日に5月の東京都区部・消費者物価指数(CPI、中旬速報値、2020年=100)を発表しました(図表1参照)。総合CPIは前年同月比で2.4%上昇と、前月と一致しました。

生鮮食品を除いたCPIは前年同月比1.9%上昇と、こちらも前月に一致しました。東京都区部CPIは全国CPIに先行して発表されます。5月の全国CPIは6月24日に発表が予定されていますが、4月の全国総合CPIは前年同月比2.5%の上昇となっています。

どこに注目すべきか:食料価格、エネルギー価格、2%、出口戦略

5月の東京都区部CPIは市場予想を小幅に下回ったものの、総合CPIは前月に続き2%を超えました。なお、日本銀行がコアコアCPIと呼ぶ生鮮食品及びエネルギーを除いたベースでは前年同月比0.9%と、前月の0.8%から小幅な上昇にとどまりました。

5月の東京都区部CPIを押し上げた項目を寄与度差で見ると、(除生鮮食品など)食料で、外食などが含まれています。また、住居や家具などもプラス貢献となっています。

一方、エネルギーは前月と今月の寄与度の変化である寄与度差がマイナス0.08と価格押し下げ要因でした。CPIが2%を超える過程ではエネルギー価格は指数の押し上げ要因でしたが上昇の勢いは足元低下しています。エネルギー構成品目の中では電気代やガソリン代の寄与度差がマイナスで、頭打ちが示されました。筆者も5月にガソリンを入れたとき、1リットルあたり161円とこれまでより低い価格であったことを思い出しました。政府のガソリン価格対策は、是非はともかく、それなりの効果があったと思われます。

ロシアの軍事侵攻が想定より長期化する可能性があること、食品メーカーなどが今後の値上げを公表していることなどから、インフレ率は当面、足元の水準で高止まり(?)する可能性が見込まれます。

日銀の黒田総裁は26日、27日と衆議院予算委員会で答弁しました。主な発言として物価について27日、エネルギー価格が大幅に下がらない限りCPIは前年比で2%程度の上昇率が12カ月は最低続くとの見方を示しています。ただし、足元の2%達成(?)は輸入物価の上昇が中心で日銀の目指す安定的な2%の達成ではないと説明しています。

なお、26日には立憲民主党の江田憲司議員からの出口戦略に関する質問に答える形で、現在の金融緩和を続けるべきながら、いずれ出口戦略を議論することになると述べ、その場合事前に説明することと、その場合のポイントは政策金利をどのように引き上げるか、日銀のバランスシート縮小方法の2つの組み合わせになるだろう、との考えを述べています。黒田総裁が出口戦略を口にすることは珍しいことではなくなりましたが、「金融市場の安定を確保した出口戦略は簡単ではないが、十分可能と思う」といった趣旨の発言もあり、市場では円が一時的に126円台の円高となりました。しかし黒田総裁は2%の物価が来年も、再来年も続くわけではないと述べており、冷静に考えれば出口戦略はまだまだ先のことと思われます。2%のインフレ目標は輸入物価の上昇ではなく賃金の上昇を伴う必要があるとしています。

なお、黒田総裁は賃金を政策目標にすべきではとの指摘に対し、日銀の目標はあくまでも物価の安定と言明し、政府との共同声明の考え方に沿って、2%の物価安定目標の実現に向けて努力すると述べています。もしかしたら、出口戦略は忘れたころにやってくるのかもしれません。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


11月FOMC、パウエル議長の会見で今後を占う

米大統領選・議会選挙とグローバル市場の反応

米雇用統計、悪天候とストライキの影響がみられた

植田総裁、「時間的に余裕がある」は使いません

ECBの今後の利下げを景況感指数などから占う

ロシア、BRICS首脳会議にかける思い