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5月の米雇用統計、堅調ながらも決め手に欠く
梅澤 利文
2022/06/06

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概要

5月の米雇用統計は就業者数が市場予想を上回る増加を示すなど、6月、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)における大幅な利上げを支持する内容です。しかし、雇用統計の一部や、他の経済指標にはインフレの鈍化や景気減速を示唆する内容もあり、金融政策の先行きについて方向感が定めにくい局面です。当面は様々なデータを精査する必要がありそうです。



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5月の米雇用統計:就業者数の伸びは市場予想を上回り高水準、雇用市場は堅調か

 米労働省が2022年6月3日に発表した5月の米雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月から39.0万人増え、市場予想の31.8万人増を上回った。前月は43.6万人増(速報値42.8万人増から上方修正)でした。家計調査に基づく5月の失業率は3.6%と、市場予想の3.5%を上回り、前月の3.6%に一致しました。労働参加率は62.3%でした。

平均時給は前月比で0.3%増と、市場予想の0.4%増を下回り、前月の0.3%増に一致しました。前年同月比では5.2%増と、4月の5.5%増からペースは減速しました。

どこに注目すべきか:娯楽・接客、政府部門、賃金、労働参加率

 5月の米雇用統計が発表された直後の米国債市場の反応は、非農業部門の就業者数が市場予想を上回ったことなどを受け利回りが上昇しました。今回の米雇用統計は全般に米雇用市場の回復を示唆する堅調な結果とは見られます。しかしながら、米10年国債利回りが3%台を回復するには恐らく次の点で力不足でした。

5月の米雇用統計の就業者数を部門別に見ると、経済活動の再開を受け娯楽・接客や、運輸倉庫、専門事業などは雇用を確保しています(図表1参照)。一方で、小売は前月比マイナスです。小売部門には企業決算で業績が悪化した企業も見られ、採用ペースの鈍化が見られます。

また政府部門の採用増に疑問が残ります。4月、5月と雇用が増加していますが、その前は1万から2万人増で推移していました。増加の要因が特定しづらく、季節調整などテクニカル要因で高く算出されている可能性も考えられます。

もっとも、非農業部門の就業者数が前月から39.0万人増えたことは、米国の労働人口の推移などから適正とされる水準を大幅に上回り、「出来すぎ」と見られます。米連邦準備制度理事会(FRB)がこれまで示唆してきた金融引き締め路線をあえて変更する可能性は低いと見ています。

次に、賃金の伸びに鈍化の兆しが見られたことも、国債利回り上昇を抑制する方向に働いたと思われます。もっとも、賃金は前年同月比で5%台と水準は高く、金融引き締め路線に影響はないと思われますが、それでも労働参加率が前月から上昇したことは朗報と見ています。労働供給の回復が想定されるからで、仮にこの動きが継続し、賃金が正常化するならば、6,7月は0.5%の利上げが示唆されていますが、その後の利上げペースを、0.5%維持か、それとも0.25%に戻すのかを判断する1つの材料になることも考えられます。

5月の米雇用統計について金融当局の発言は限られますが、クリーブランド連銀のメスター総裁はインタビューで、就業者数が前月より若干低いのは、良いことと述べる一方で、このことがFRBの見通しや政策を変えると判断するのは時期尚早と述べ、5月の雇用統計は方向感を定めるには決め手を欠く認識と思われます。仮に今後インフレ率が低下しないようならば、9月も0.5%の利上げを支持すると述べており、今後のデータ次第の姿勢です。筆者もメスター総裁同様に、今後のインフレ動向次第では9月に0.5%の利上げも視野に入れる必要はあると考えますが、まだ証拠は不十分で、今回の雇用統計のみでは、現状の引き締め姿勢の維持に留まりそうです。

なお、5月の米雇用統計と同日に発表された5月の米ISM非製造業景況指数は55.9と、市場予想の56.5、前月の57.1を下回りました(図表2参照)。景気の拡大・縮小の目安となる50は上回っていますが、米国景気の減速傾向が継続しているようにも見えます。現局面は景気の堅調さと鈍化を示す指標が両方とも示されています。このため、次の展開が定めにくいことも、国債利回りの上昇を鈍らせたと思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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