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中国PMIにみるロックダウンの影響
梅澤 利文
2022/06/07

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概要

5月の中国製造業と非製造業(サービス業)購買担当者景気指数(PMI)は水準は低いものの、ロックダウン解除・緩和を受け回復に転じています。この期間の移動量データも小幅ながら改善しており、回復への期待が高まっています。ただ、ロックダウンの元となるゼロコロナ政策を緩めただけで、政策そのものは維持されているとすれば、回復はコロナ次第となりそうです。



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5月の中国サービス業購買担当者景気指数(PMI):中国景気の底打ち示唆も低水準

 中国メディアの財新等が2022年6月6日に発表した5月の財新中国サービス業購買担当者景気指数(PMI)は41.4と、市場予想の46.0を下回るも、4月の36.2を上回りました(図表1参照)。

 これに先立ち、中国国家統計局が5月31日に発表した5月の非製造PMIは47.8と、市場予想の45.5、4月の41.9を上回りました。景気拡大・縮小の目安50を下回るものの、大幅に悪化した4月からの底打ちが見られました。

どこに注目すべきか:上海市、ロックダウン、PMI、ゼロコロナ政策

 中国・上海市は6月1日、約2ヵ月ぶりに都市封鎖(ロックダウン)を解除しました。商業施設などに入る際、PCR検査の陰性証明を求められるなど制限は多く残るものの、市民には外出が認められ、地下鉄など公共交通機関が再開しています。5月のサービス業PMIが改善した背景には、上海市に先立ち、他の地域でロックダウン措置が緩和されたことが反映されたと見られます。

上海に加え北京など大都市のロックダウン措置解除を受け6月からの経済再開も想定はされます。この動きを観光収入から眺めます。中国では解除明けの6月3日~5日は端午節休暇でした。中国文化観光省の統計によると、同休暇中の中国国内観光収入は258億元(約5100億円)と、昨年と比べマイナス12%程度の減少となりました。報道の多くはこの点を踏まえ、ロックダウン解除となっても回復は先が長いと伝えています。

しかしながら、1ヵ月ほど前の5月月初にあった別の連休である労働節では観光収入が昨年に比べマイナス43%程度の大幅な減少となったことと比べれば、依然前年を下回る低水準ながら、少なくとも最悪期は脱した可能性が考えられ、サービス業PMIの回復軌道とも整合的と見ています。

なお、非製造業(サービス業)と見なされる建設業PMIは5月分が前月から小幅ながら悪化しています。中国当局から建設基準の緩和など不動産規制を緩める動きは見られますが、実際に活動が回復するのは時間がかかる模様です。不動産市場に対する懸念は根強いと見られます。

これまでサービス業について述べてきましたが、中国の5月の製造業PMIもサービス業PMI同様に底打ちが見られました(図表2参照)。データを確認すると、5月の(政府系)製造業PMIは49.6と、4月の47.4、市場予想の49.0を上回りました。

5月の中国製造業PMIは50を下回ってはいますが水準は50に近づいています。より注目なのは、生産、新規受注、雇用、輸出向け新規受注など主要な項目が幅広く(前月に比べ)改善している点です。この2年ほど中国経済の成長は輸出依存の度合いが高かったことに比べれば、PMIの水準は低いものの、回復の質は良いようにも見えます。

為替市場では4月は人民元安が進行しましたが、5月からは人民元高に転じています。株式市場も4月後半から上昇傾向に転じており、ロックダウン解除を先取りする動きが見られました。

これらの背景には5月23日に発表された減税や、インフラ投資拡大、自動車購入の税率引き下げなど景気下支え策など財政政策を中心とした当局の景気支援策があげられます。そして切れ目なくサポートが続くかが今後の注目点です。

その上、最大の注目点はゼロコロナ政策の復活があるかです。ロックダウンは解除しましたがPCR検査は続けるなどとしており、ゼロコロナ政策を見捨てたわけではないようで、不安を抱えながらの回復となる可能性も残りそうです。



梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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