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5月の米CPI、インフレ率は思い通りに下がらない
梅澤 利文
2022/06/13

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概要

5月の米CPIは物価が再び上昇傾向であることが示され、インフレのピークアウト期待を後退させました。米連邦準備制度理事会(FRB)は6月、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で主に0.5%の利上げを支持する対話を行ってきましたが、今回のCPIを見る限り、今後のインフレ率の想定は上方を見る必要があり、FRBにも戦略の調整が求められそうです。



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5月の米消費者物価指数:インフレのピークアウトは期待外れとなる結果に

 米労働省が2022年6月10日に発表した5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比8.6%上昇と、市場予想、前月の8.3%上昇を上回り、ピークと思われていた3月の8.5%上昇をも上回り、40年5ヵ月ぶりの水準となりました(図表1参照)。前月比では5月が1.0%上昇と、市場予想の0.7%上昇、低下が見られた前月の0.3%上昇を上回りました。

なお、変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア指数は前年同月比で6.0%上昇と、前月の6.2%を下回りました。しかし、市場予想の5.9%上昇は上回り、市場が見込んでいたほどには前月に比べ低下しませんでした。

どこに注目すべきか:米CPI、住居費、航空運賃、ガソリン価格

 5月米CPIは、前月のCPIの結果を踏まえたインフレのピークアウト期待を明確に後退させる内容でした。足元の変化を反映する前月比で見ると、総合CPIは1.0%上昇と市場予想を上回ったうえ、コアCPIも同0.6%上昇と、市場予想の0.5%上昇を上回っています。

根強いインフレ圧力は幅広い項目で確認されました。食品やエネルギー価格に加え、財やサービス価格でも物価が上昇しました。サービス価格(CPI構成比、約56.9%)の中では住居費(主に賃料と帰属家賃、図表2参照)の上昇傾向が確認されました。家賃としての賃料、持ち家に家賃を支払っていることとして算出する帰属家賃共に前年同月比で5%を上回り、上昇傾向が継続しています。

サービス価格に含まれる項目で、他に上昇が目立ったのは航空運賃です(図表3参照)。前年同月比で37.8%、前月比で12.6%と大幅な上昇となりました。米国の運輸保安庁(TSA)による空港でのチェックポイント通過者は5月の1日平均は約217万人で、前年同月比で約34%上昇しています。航空会社は燃料費の上昇などを価格転嫁できている様子です。なお、今月月初から6月11日までのチェックポイント通過者を同じ調査で見ると1日平均は約220万人で、航空旅客は順調にコロナ前の水準に戻りつつある状況です。

燃料価格の上昇を反映するエネルギー価格(構成比、約8.3%)は前年同月比で34.6%と大幅に上昇しました。エネルギー価格の構成比で過半を占めるガソリン価格は5月が前月比で4.1%と大幅な上昇となりました。4月はマイナス6.1%と大幅に減少し、インフレのピークアウトを演出したガソリン価格は一転して押し上げ役となり、足元も上昇中です。

なお、財価格は前年同月比8.5%とCPI全体とほぼ同じ動きでしたが、中古車など「下がる」と思われていた項目に見込み違いがあり、サプライズとなったのかもしれません。

もっとも、通常であれば単月の変動で済まされそうな変化であっても、3月でインフレがピークアウトしたというシナリオからすれば許容し難い上昇に映った面もあるようです。また、同日に発表された期待インフレ率の上昇など、CPI以外の経済指標にも警戒サインが示されました。金融当局は金融引き締め姿勢を適切に強める必要がありそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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