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ユーロ圏6月インフレ率は過去最高を更新も利回り低下
梅澤 利文
2022/07/04

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概要

ユーロ圏のインフレ率は総合HICPで見ると上昇が続いています。ただ、市場ではユーロ圏の景気減速懸念が強まっています。欧州中央銀行(ECB)は明確なインフレ率低下が確認されるまで、金融引き締め姿勢を続ける必要があります。一方で市場は景気減速を反映した動きも見られ、当面方向感が定まりにくい展開が想定されます。



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ユーロ圏HICP:6月の総合HICPは前年同月比で8.6%上昇と、過去最高を更新

欧州連合(EU)統計局(ユーロスタット)が2022年7月1日に発表した6月のユーロ圏消費者物価指数(HICP)上昇率は前年同月比8.6%と、市場予想の8.5%、5月の8.1%を上回りました(図表1参照)。

一方で、エネルギーや食品を除いたコアHICPの上昇率は前年同月比3.7%と、市場予想の3.9%、前月の3.8%を下回りました。6月のユーロ圏のインフレ指標を受け、ユーロ圏国債市場ではドイツ(独)国債利回りは長期、短期共に低下(価格は上昇、図表2参照)しました。

どこに注目すべきか:HICP、エネルギー価格、PMI、景気減速

ユーロ圏のインフレ率は6月(速報値)は総合HICPは市場予想を上回り、過去最高となりました。ただ、市場の反応を見ると、ユーロ圏の指標的な動きを見せる独国債利回りは、経済指標公表後、長期だけでなく、政策金利の動向を反映する傾向がある2年国債利回りも同様に低下しました。

先月公表された米国の5月の消費者物価指数(CPI)は同様に市場予想を上回りましたが、国債市場では逆の反応で、国債利回りは欧米共に上昇しました。インフレ指標に対する市場の反応の違いについて背景を振り返ります。

1つ目は市場の織り込み度合いの違いです。米国は3月のCPIがピークという期待があり、4月に期待通り下がった後、5月は上昇したため「ショック」が大きかったのですが、ユーロ圏のインフレ率のピークアウトはもう少し先と見られています。

2つ目は内容の違いです。ユーロ圏の総合HICPはエネルギーと食料価格などを背景に上昇しましたが、コアHICPは6月は市場予想、前月を共に下回っています。一方米国の5月のCPIは家賃などサービス価格の上昇を背景にコアCPIも市場予想を上回りました。ユーロ圏の総合HICPを押し上げていたのは主にエネルギー価格(41.9%)と食品(11.1%、除アルコール、タバコ)の上昇が主な要因で、足元の財価格やサービス価格は相対的に落ち着いています。ただ、これらの価格にも上昇の兆しがあり、今後の動向に注意は必要です。

欧州中央銀行(ECB)が金融引き締め姿勢に転じたことで、ユーロ安に底打ちの兆しが見られることも、インフレ抑制要因と期待されますが、ユーロの動向はやや不安定です。

ユーロ圏の景気減速懸念が足元強まっていることも国債利回りの低下を促す要因と思われます。6月の製造業、サービス業ともに購買担当者景気指数(PMI)は前月を下回りました(図表3参照)。PMIが低下傾向で景気減速を示唆するだけでなく、物価の先行指標もインフレ率低下の可能性を示唆しています。例えば、新規受注PMIを在庫PMIで割った新規受注/在庫比率も低下傾向です。

同様のインフレ指標であっても背景により市場の反応は異なることがあります。ECBなど金融当局は物価抑制を優先する姿勢です。また今の段階はその必要があります。ただ投資家はインフレと共に景気減速を先読みし始めているようで、市場の方向感が、より定まりにくい展開が想定されます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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