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英国ジョンソン首相の辞任と市場動向
梅澤 利文
2022/07/08

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概要

英国のジョンソン首相が辞任を表明しました。コロナ禍におけるパーティー開催などで批判が高まり、英国政治が停滞する中、与党保守党からの支持を失った格好です。英ポンド安の背景の1つに政治の停滞があっただけに、ポンド回復を期待したいところですが、英国の低成長と高水準のインフレに改善が見られない中、ポンド回復の道筋は不透明と見られます。



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英国ジョンソン首相辞任表明:政権内の不祥事続きで閣僚の辞任相次ぐ

英国のジョンソン首相が2022年7月7日、国民向けの演説で辞任を正式に表明しました。政権内での不祥事が続き、閣僚や与党・保守党内の離反が相次ぐ中、約3年にわたった政権に幕を下ろしました(図表1参照)。

ジョンソン氏は新党首選出のスケジュールを来週発表すると述べ、新党首が決まるまでは首相職にとどまる意向を示しています。

どこに注目すべきか:英国、ジョンソン首相の辞意、世論、インフレ

英国のジョンソン首相が辞任を表明した背景は既にマスコミで報道されています。足元では過去に痴漢行為の苦情が寄せられていた議員を党幹部に起用したことが発覚したためと伝えられています。しかし、背後にあったのは、新型コロナウイルス対策の行動規制の最中に官邸などでパーティーを開いていた問題を受け支持率が急降下したことでしょう。6月6日のジョンソン首相に対する信任投票は乗り切りましたが、23日の下院補欠選挙では保守党が議席を失う結果となりました。また、ウクライナ政策など外交政策では、ジョンソン首相はポイントを稼いだと見られますが、最近の英国議会の様子はジョンソン首相の責任追及に相当のエネルギーを費やし、内政に停滞感が生じていたようです。

世論調査で不支持率を見ると、メイ前首相が辞意を表明した19年5~6月頃の水準に、現政権の不支持率が近づいています。また、別の世論調査を見ると、保守党の支持率低下が確認されます。ジョンソン首相の官邸などでのパーティー開催問題が浮上した昨年暮れごろから、野党労働党の支持率が保守党を上回る状況となっています。

このような状況を背景に、保守党内にジョンソン首相では選挙を戦えないという機運が強まったと見られます。総選挙となると2年後が想定されますが、来年には重要な地方選挙が控えており、体制の立て直しを急いだものと見られます。

次に、市場の反応を見ると、政治動向を反映しやすい為替市場ではポンドが上昇しました(図表2参照)。保守党内の対立で停滞していた政治に対し改善期待があったのかもしれません。もっとも、ポンド安傾向が続いていたのは、英国経済の先行きに対する懸念がその背景にあると思われます。英国の5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で9.1%の上昇と深刻なうえ(図表3参照)、経済成長率は回復が鈍くなっています。例えば、英国イングランド銀行(中央銀行)は6月の会合で4-6月期のGDP(国内総生産)成長率がマイナス0.3%に落ち込むと見込んでいます。

ジョンソン氏の後任選びは、保守党の支持率が低く解散・総選挙は考えにくいことから、保守党の党首選で行われ、その日程が来週に示される見込みです。ただ、ポンドの動向は景気回復の鈍さと高水準のインフレに左右されており、党首交代が持続的なポンド高につながるかは不透明です。

 


 


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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