Article Title
OPECプラス、やはり小幅増産にとどまる
梅澤 利文
2022/08/04

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

バイデン米大統領の7月の中東歴訪の成果を占うOPECプラス閣僚級会合でしたが、原油増産の規模はお付き合いに留まりました。産油国側の事情を考えれば増産への期待は低かったように思われます。それでも、足元原油価格が下落傾向なのは景気動向など経済ファンダメンタルズがより原油価格の動向を左右していると見られそうです。



Article Body Text

OPECプラス閣僚級会合:9月の供給は日量わずか10万バレルの増産で合意

石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国でつくる「OPECプラス」は2022年8月3日の閣僚級会合で9月の供給を日量10万バレル増産することで合意しました。バイデン米大統領が7月にサウジアラビアを訪問、増産を求めていました。消費国に一定の配慮を示したものの、増産は小幅にとどまりました。

なお、3日のニューヨーク商業取引所のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物9月限は、前日比3.76ドル安の1バレル=90.66ドルで終了しました(図表1参照)。原油先物価格は、ロシアがウクライナに侵攻する前の2月初旬以来の水準に下落しました。

どこに注目すべきか:OPECプラス、原油増産、ガソリン、原油需給

今回のOPECプラス閣僚級会合が注目されたのは、7月にバイデン米大統領がサウジアラビアなど中東諸国を訪問し、また湾岸協力理事会に参加し、各国に原油増産を要請したことを受けてのOPECプラスであるからです。

しかしながら、原油増産への期待は低く、結局成果はその通りになったに過ぎないとも言えそうです。OPECプラスは7、8月分について日量で60万バレル超の供給拡大を目処としていたことから見ても、外交の成果は物足りない印象です。

成果が期待できない背景を供給側の立場から見ると、ロシアへの配慮が挙げられます。OPECプラスはOPECにロシアなどの非OPEC国で構成されています。報道で関係者のコメントなどを見ると、今回の合意にはロシアへの配慮がうかがえます。

次に、産油国の増産余地が少なくなっている点です。石油生産量の動きを見ると(図表2参照、動向を示すため指数化で表示)増産傾向とはなっています。しかし、増産をけん引しているのはサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)などに限られます。反対に、ナイジェリア、アンゴラ、リビアなどは長期的に生産が低下傾向です。国別に事情は様々ですが、新規油田に対する投資の縮小という長期テーマが生産を抑制していると見られます。

反対に、原油価格下落の要因を需要サイドから振り返ります。なお、3日の原油先物価格が下落した背景はOPECプラスの合意内容でなく、米エネルギー情報局(EIA)の在庫統計でガソリンの在庫が市場予想のマイナスに反して増加していたことなどが挙げられます。

昨日だけでなく、図表1にあるように原油は6月から低下傾向です。その背景として需要の低下が考えられます。国際エネルギー機関(IEA)のデータによれば、原油は4-6月期には供給が需要を上回る供給超過であった模様です。中国のゼロコロナ政策などによる需要の減少が主な背景と見られます。もっとも、中国のゼロコロナ政策だけが供給超過の背景と限定してしまうと、すぐにも供給超過は解消されそうですが、IEAの予測ではしばらく、供給超過が続くと見込んでいます。恐らくその背景として世界的な景気減速懸念と、インフレによる原油需要の縮小が想定されます。例えば、米国のガソリン需要をEIAの週次データ(4週移動平均)で足元と過去の平均を比べて見ると、過去においては通常7月以降、夏場のガソリン需要は増加しますが、今年に限ってみると、需要は低下しています。足元ガソリン価格はようやく低下傾向ですが、過去水準に比べガソリン価格が高水準であることなどが需要を抑えている可能性があります。原油価格は産油国の価格政策など政治を反映する面も多々ありますが、景気動向も重要なファクターと思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


植田総裁、「時間的に余裕がある」は使いません

ECBの今後の利下げを景況感指数などから占う

ロシア、BRICS首脳会議にかける思い

ブラジルレアルの変動要因と今後の展望

ベージュブックにみるFOMC利下げの道筋

IMF世界経済見通し:下方リスクをより多く指摘