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強かった7月米雇用統計の解釈
梅澤 利文
2022/08/08

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概要

7月の米雇用統計は低水準の失業率など強い数字が見られました。雇用データ公表後、米国債利回りが急上昇したのは自然な動きと見られます。ただ、10年国債利回りは3%を下回ったままで、極端な利上げ見通しには転じてはいないようです。雇用指標の解釈に加え、消費者物価指数など他の経済指標を活用して今後の方向性を占う動きが展開されるものと見ています。




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米雇用統計:7月の米雇用統計は非農業部門の就業者数が大幅増など堅調な内容

米労働省が2022年8月5日に発表した7月の米雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月から52.8万人増え、市場予想の25万人増、前月の39.8万人増(速報値の37.2万人増から上方修正)を上回りました。

失業率は3.5%と、市場予想、前月(共に3.6%)を下回りました(図表1参照)。なお、労働参加率は62.1%でした。

賃金動向については、平均時給は前月比0.5%増と市場予想の0.3%増、6月の0.4%増(速報値0.3%増から上方修正)を上回りました。前年同月比では7月が5.2%増と、市場予想の4.9%増を上回り、前月と一致しました(図表2参照)。

どこに注目すべきか:米雇用統計、失業率、労働参加率、ECI

今回の米雇用統計は米国の労働市場が堅調であることを示す数字が並びました。2四半期連続でマイナス成長となっている米国は形式的には景気後退であっても、今回の雇用市場の強さから判断して、景気後退の判定を差し控えることも考えられそうなほどに数字は堅調と見ています。市場では9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.5%でなく7月と同様に0.75%の大幅利上げの予想に傾きつつあるようです。

ただし、数字の内容を見ると何点か気になるところもあり、今後の動向を注視する必要がありそうです。

まず、堅調な数字を振り返ると、前月比52.8万人と市場予想を大幅に上回った就業者数は企業の採用意欲が根強いことをうかがわせます。雇用を増やした部門を見ると教育・医療部門が前月比12.2万人、事業支援8.9万人などとなっています。なお、景気の先行き懸念から一部企業の採用抑制が報道されていますが、一方で、これを好機と採用に積極的な企業が残っている模様で、今後の展開に注意が必要です。

なお、気がかりなのは例えば政府部門のように毎月の変動が大きい部門などがあることです。政府部門は7月が5.7万人増と前月から急増していますが、もしかするとデータ推計によるブレの可能性もあり当面チェックが必要と見ています。

次に、失業率(家計調査)の低下です。7月は3.5%と、コロナ禍前の水準に回復しており、労働市場の堅調な回復の証拠と見られます(図表1参照)。しかし、数字ほどに強さが感じられない背景として労働参加率の低さが挙げられます。これは、仕事を探し求める失業者と雇用者を合計した労働力人口が減少していることを意味しており、恐らく失業者の一部は労働市場にカウントされなくなったことが伺えます。コロナで多くが労働市場を去った55歳以上の労働参加率を見ると38.7%と労働者の戻りが鈍いことなどが気がかりです。

これは2つの点が問題として挙げられます。まず、求人件数が高水準で推移する中、労働市場への戻りが順調ならば、失業率を急上昇させることなくインフレ抑制する米連邦準備制度理事会(FRB)の戦略に合致しますが、現実は反対で、FRBの政策運営余地が狭まることが懸念されます。


労働参加率の減少による別の問題点は労働力不足により賃金上昇が継続し、インフレがスパイラル的に上昇を続ける懸念です。雇用統計で示される平均賃金は業種別の回復度合いの違いにより平均賃金が変動する傾向がありますが、雇用コスト指数(ECI)はその点を調整しています(図表2参照)。ECIで見ると賃金は4-6月期が前年比5.1%と上昇圧力が明確に残ります。賃金については雇用統計の平均賃金だけでなく、他の指標を参照し、活用して、インフレ長期化の懸念がないかを確認する必要があると見ています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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