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ECB政策理事会を前にポイントの整理
梅澤 利文
2022/10/26

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概要

10月27日に欧州中央銀行(ECB)の政策理事会の開催が予定されています。市場では0.75%の利上げが相当程度の確度で見込まれています。しかし次回以降の利上げ幅となると、ユーロ圏の景気悪化も見込まれるだけに不確実性が高まるとみています。また、19年に再導入されたTLTROなどデフレ対策の政策に対する今後の取り扱いなどにも注目が集まっています。




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ユーロ圏PMI:10月のユーロ圏PMIは製造業、サービス業ともに前月を下回る

米S&Pグローバルが2022年10月24日に発表した10月のユーロ圏の購買担当者景気指数(PMI)は総合が47.1と市場予想の47.6、前月の48.1を下回りました(図表1参照)。

製造業PMIは46.6と、市場予想の47.9、前月の48.4を下回りました。サービス業PMIは48.2で市場予想と一致しましたが、前月の48.8を下回りました。なお、PMI指数は50が好不況の分かれ目です。

どこに注目すべきか:PMI、ECB政策理事会、景気後退、TLTRO

欧州中央銀行(ECB)は10月27日の政策理事会で、主要政策金利を公表することが予定されています。市場ではユーロ圏のインフレ率の高止まりを受け、前回(9月)同様に利上げ幅が0.75%の大幅な利上げになると予想されています(図表2参照) 。しかし、その次(12月)の政策理事会での利上げ幅については0.75%という見方と、0.50%という見方が大半と見られます。ユーロ圏9月のインフレ率は前年比9.9%(確定値)と高水準なことから大幅な引き上げが見込まれる一方で、ユーロ圏景気は悪化することが懸念され、0.5%の利上げに抑えるとの声もあります。

10月27日のECB政策理事会は利上げ幅こそ0.75%予想が大半ですが、12月の動向を占う上でラガルド総裁の会見が注目されます。また、今後の利上げ方針以外にも、ECBには宿題が多く残されています。例えば、条件付き長期資金供給オペレーション(TLTRO)の取り扱い、再投資を続ける債券購入政策の縮小(QT)開始時期などがあげられます。

まず、これからの政策金利の動向は景気とのバランスが大切と思われます。10%前後のインフレ率に対し1%台の政策金利は適切とは思われません。ただし、先のPMIが示すようにユーロ圏の景気は22年10-12月期から景気後退の可能性が高まっているように思われます。一方でインフレについてはこれまで物価を押し上げてきたエネルギー価格が落ち着きを見せ始めたことや、ユーロ圏各国の価格政策により今後インフレがある程度落ち着くことも想定されます。もっとも、足元のインフレ率が上昇を続ける中で、物価への見込みだけで極端に政策スタンスを変えることは考えにくいと思われます。今回の政策理事会では市場予想通り0.75%の利上げが決定されると見込まれます。一方、景気の悪化や物価の落ち着きがより明らかとなると思われる12月の政策理事会では利上げペースを落とす可能性があると見ています。

次に、TLTROの貸し出し条件についてです。足元の第3弾のTLTROは19年9月から21年12月まで計10回実施されました。TLTROの詳細な仕組みには言及しませんが、基本的な考えは貸し出し目標の達成に応じて、ECBが銀行に有利な金利(政策金利マイナス0.5%)で融資するイメージです。銀行に融資を活発化させるという貸し出し目標は、基本はデフレ対策として導入されたものです。このような性格の政策ながらTLTROの期間が4年のため、来年半ばに1兆ユーロ超が満期を迎えますが、遅いものは24年末まで残ります。TLTRO第3弾導入当時は、破格の条件で人気化しましたが、その後の金融政策を縛ることに懸念の声も一部にありました。もっとも、ユーロ圏がこれほどのインフレ局面を迎えると予想できた人は皆無と思われますが。

TLTROは契約であり、時代に合わないといって条件を変更することは困難と思われます。しかし、先週、TLTROの条件変更が法的に可能かもしれないとの報道がありました。ラガルド総裁も9月にTLTROは適切に対応すると述べており、今回、何らかの進展があることも想定されます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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