Article Title
ドイツの生産者物価は市場予想を大幅に下回る
梅澤 利文
2022/11/22

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

エネルギー価格上昇主導で、ユーロ圏のインフレ率は上昇傾向です。もっともエネルギー価格に落ち着きが見られ、インフレ率がある程度低下することも想定されます。しかし、ECBは賃金上昇率がインフレ率に追い付いていないなどインフレの二次的な波及要因により注目していると見られ、景気を抑制する水準まで金利を引き上げることもECBの選択肢なのかもしれません。




Article Body Text

独生産者物価指数:市場予想を大幅に下回るも、依然高水準

ドイツ連邦統計庁が2022年11月21日に発表した10月の生産者物価指数(PPI)は前年同月比で34.5%上昇し、市場予想の42.1%、前月の45.8%を下回りました(図表1参照)。前月比ではマイナス4.2%でした。ドイツの10月の消費者物価指数(CPI、EU基準)は前年比で11.6%上昇しました。

なお、ユーロ圏全体の10月の消費者物価指数(改定値)は前年比で10.6%上昇しました。発表が遅いユーロ圏PPIは9月の前年比で41.9%上昇したものが直近の数字となります。

どこに注目すべきか:PPI、エネルギー価格、賃金、期待インフレ率

エネルギー価格の上昇などに伴い10%台にまで上昇しているユーロ圏のインフレ率に頭打ちの兆しが見られました。産業の川上の物価を示唆するPPIに頭打ちが見られたからです。もっとも、これまでのところ10月のPPIが下がったに過ぎず、インフレ率を押し下げるにはPPIの持続的な低下が求められます。

また、PPIの内容を見ると、前月比でマイナスとなった項目はエネルギー関連が大半となっています。天然ガスや原油など市場で取引されるエネルギー価格はすでにピークからは下落していたため、10月に起きることまでは予見できなかったとしても、PPIなどの低下は想定の範囲内と思われます。

では、ようやく見られたPPIが下向く兆しは、欧州中央銀行(ECB)の金融政策に影響を与えるでしょうか?おそらく、その可能性は低いと思われます。PPIはCPIに先行する傾向があるものの、政策目標はCPI(ユーロ圏ではHICP)の水準であり、そのCPIは下がっていないどころか、当面上昇する可能性さえあるからです。また中期的なインフレ要因も気がかりです。

この辺りの事情を最近(11月)のECBメンバーの発言で確認します(図表2参照)。例えば、レーン専務理事はユーロ圏の企業の価格転嫁が遅れており、CPIが今後も上昇する可能性を指摘し、当面利上げ継続が必要と述べています。PPIの低下だけでインフレへの懸念を緩めることはなさそうです。

他のECBメンバーもエネルギー価格の下落は想定の範囲内で、利上げペースを0.75%から落とすことは、ほぼコンセンサスとなっているようです。しかしながら、賃金上昇による中期的なインフレの抑制に目を光らせているようです。ユーロ圏の賃金をインフレ率で調整した実質賃金はマイナスが続いており、賃金上昇に伴うインフレをECBは警戒しているからです。ECBのラガルド総裁が景気を抑制する水準まで金利を上げる必要を指摘する背景の1つに賃金動向や期待インフレ率などを含めています。ECBは賃金動向を左右する要因に期待インフレ率を挙げています。ユーロ圏の期待インフレ率は全体的には抑制されていますが、利上げ開始後であっても緩やかに上昇しており(図表3参照)、ECBは金融引き締めの声を当面出し続ける必要がありそうです。レーン専務理事ら一部ECBメンバーはユーロ圏の景気後退懸念を指摘しています。そのような中にあって利上げペース減速は想定されますが、利上げ余地を残した政策運営を想定しています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


インドネシア中銀、サプライズ利上げの理由と今後

4月のユーロ圏PMIの改善とECBの金融政策

米国経済成長の背景に移民流入、その相互関係

IMF世界経済見通し:短期的底堅さを喜べない訳

ベージュブックと最近のタカ派発言

中国1-3月期GDP、市場予想は上回ったが