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中国12月の主要統計から今後を占う
梅澤 利文
2023/01/18

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概要

人の行動を厳格に抑制する中国のゼロコロナ政策が解除される動きを受け、12月の小売売上高など主な統計は市場予想を上回りました。中国の今年の経済成長率は5%前後の回復も見込まれますが、中国には不動産市場の問題など中長期的な課題も残されており、当局による景気下支えは今後も必要と思われます。




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中国主要経済指標、低水準ながら概ね市場予想を上回る

中国国家統計局が2023年1月17日に発表した22年10~12月期の実質GDP(国内総生産)は、前年同期比2.9%増と、市場予想の1.6%増を上回りました。7~9月期は3.9%増でした。

同日に発表された中国の12月主要経済指標では小売売上高が前年同月比でマイナス1.8%減と、市場予想のマイナス9.0%減、前月のマイナス5.9%減を上回りました(図表1参照)。12月の工業生産も前年同月比で1.3%増と、市場予想の0.1%増を上回りました。前月の2.2%増からはペースダウンしました。工場建設などを含む固定資産投資は12月が年初来前年比で5.1%増と、市場予想の5.0%増を上回りましたが、前月の5.3%増を下回りました。

中国の22年経済成長率よりも、今後の景気動向に注目が集まる

中国の22年通年のGDP成長率はゼロコロナ政策の影響もあり、政府目標の「5.5%前後」を下回りました。政治的責任などはともかく、そのことに関する関心は低いと思われます。

むしろ、ゼロコロナ政策解除後の中国経済の行方に関心が集まるとみられます。そこで中国経済の動向を占うために12月の主要経済指標を振り返ります。

まず、小売売上高を項目別にみると12月はゼロコロナ政策解除が進行する一方で、コロナの感染拡大も見られたことからレストランの飲食なども反映する食料が悪化しました。宝石や衣類なども軟調な展開でした。一方で、コロナ感染への不安から医療品が急増しました。

なお、自動車は12月末で自動車取得税減税の期限が切れることから駆け込み需要で回復したとみられます。自動車購入の持続性には懸念が残ります。

なお、人の移動データを確認すると12月後半からの回復傾向は足元でも概ね継続しています。人の動きが戻ったことは、市場予想を上回った工業生産活動の回復にもプラスに働いたとみられます。中国における12月のスマートフォンの生産は11月を上回っているようです。

今後の中国の動向をみるうえでポイントは1月21日から始まる春節の連休と見ています。昨年10月の国慶節での消費は前年に比べやや低調でした。ゼロコロナ政策が厄介なのは、ゼロコロナ政策導入前であっても人の移動を抑制する可能性があるからです。移動先で突然ロックダウンが実施されることを懸念する人が旅行などを控える傾向が指摘されています。中国政府はゼロコロナ政策を解除したと報道されており、消費の回復が期待されています。春節休暇における人々の行動は、ゼロコロナ政策の解除による消費動向の回復を確認する機会になると見ています。

ゼロコロナ解除の動きは確かに朗報だが、景気回復には注意点も残る


中国の人の移動の回復が足元まで継続するなどゼロコロナ政策解除の動きはプラス要因となっているようです。ただ、12月の小売売上高が市場予想を上回ったのは減税終了前の駆け込み消費や、感染を懸念した医療品需要の急増なども押し上げ要因と見られます。その他の商品にも購入が広がるのか確認は必要と見ています。

小売売上高では、中国不動産市場の回復が鈍いことから家具も低水準でした。中国の固定資産投資で不動産投資を確認すると、12月は前年比マイナス10.0%減と、前月を下回りました(図表3参照)。中国当局は不動産規制の緩和も進めていますが、効果が表れるのには時間がかかることも考えられます。今年の中国経済成長率は5%前後を想定していますが、不動産市場の回復の鈍さはリスク要因の一つと見ています。

なお、17日に公表された中国の人口統計で、中国の61年ぶりの人口減少が公表されました。短期的にはともかく、長期的な成長率の下押し要因と見られます。

ゼロコロナ政策解除により、23年は中国経済の回復が期待されますが、課題は残されており、中国当局は景気テコ入れを継続する必要があると見ています。

 

 


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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