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IMF世界経済見通し、悲観色は薄まったが
梅澤 利文
2023/02/01

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概要

国際通貨基金(IMF)が23年1月末に公表した世界経済見通しは、悲観色が強かった前回に比べ、足元のユーロ圏経済の底堅さや、中国のゼロコロナ政策解除を反映して悲観色を若干薄めた印象です。しかしながら、世界経済の先行きには課題も多く残されており、楽観に転じるには、しばらく時間がかかることも想定されます。




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IMF、インフレ懸念後退とゼロコロナ政策解除で経済成長見通しを上方修正

国際通貨基金(IMF)は2023年1月30日(日本時間31日)に世界経済見通しを公表し、23年の世界全体の成長率予測を2.9%と前回(22年10月時点の予測)の2.7%から0.2ポイント引き上げました(図表1参照)。IMFが23年の成長率を上方修正したのはほぼ1年ぶりとなります。

国別では、米国の23年の成長率はインフレ懸念後退などを受け前回から0.4%上方修正されました。新興国では中国がゼロコロナ政策の事実上の解除などを受け前回から0.8%と大幅に上方修正されています。

IMFは、景気の底堅さ、インフレ減速感などを背景に成長率を上方修正

今回のIMFの世界経済見通しでは、前回の見通しに比べ、景気に対する悲観の程度が弱まり、結果として成長見通しは上方修正されました。要因として、各国経済の下押し圧力に対して抵抗力が想定されること、インフレ圧力緩和、中国の突然のゼロコロナ政策の解除などがあげられます。

各国の抵抗力は、例えばユーロ圏経済では天然ガス供給不安への対応や財政支援があげられます。米国は過剰貯蓄による消費の底堅さ、日本は財政支援や相対的に堅調な企業業績など、国によって違いがありますが、「意外」と景気は底堅い可能性をIMFは示唆しています。

インフレ率については米国の雇用コスト指数(ECI)を例として取り上げます。賃金動向がインフレを大きく左右するとみられるからです。22年10-12月期のECIは前期比で1.0%上昇と、市場予想、前期を下回りました(図表2参照)。前年同期比を見ると5.1%上昇と依然高水準ですが、変化の方向を示唆する前期比は賃金動向の落ち着きを示唆しています。米ECIが前期比で低下したことに示される賃金動向の低下と、それに伴うインフレの減速感は、例外はあるにせよ他国に同様の傾向が広がる可能性はあります。そうはいっても、賃金水準は依然高く、低下傾向が今後も継続するのか注意が必要です。

中国のゼロコロナ政策解除に伴う経済再開は当面景気の押し上げ要因とみられます。もっとも、24年の中国の成長率は横ばいで、サプライズ回復には賞味期限もあるようです。

IMFは景気への悲観色を弱めたが、楽観に転じるには時間が必要か

今回の世界経済見通しには、景気底打ちへの期待が見られる一方で、懸念も残ると筆者は見ています。IMFもリスクは依然下方方向としています。

気になる点をいくつか指摘すると、まず、23年の経済見通しは上方修正されましたが、24年は概ね前回から下方修正されています。23年を引き上げたことで24年の成長率がテクニカルに引き下げられた面がある一方で、来年にわたり景気回復の材料に乏しいとも考えられます。例えば日本の24年の成長率は23年までの景気押し上げ要因がなくなり、0.9%に低下すると指摘しています。


なお、IMFはリスク要因としてインフレ懸念継続とその裏返しとして金利政策の維持を迫られることや、ウクライナ紛争の長期化、金融システム不安、米中など世界の分断をあげています。例えばインフレ率はエネルギーと食料を除いたコアインフレ率は23年10-12月期で4.5%と高く、前回から上方修正されています。コアインフレ率は賃金動向に左右されやすくインフレ懸念は簡単に消えない可能性があることにも注意が必要です。

筆者が懸念する別の要因は成長の偏りです。23年の世界の成長率予想である2.9%を寄与度で見ると、インドと中国の2ヵ国の寄与だけで半分程度が占められます。24年に先進国の米国とユーロ圏の成長への寄与度に若干の改善は見られますが、新興国が成長をリードする構図に大きな変化はないようです。

今回の世界経済見通しでは、通常通り分析編のないレポートであるため、分析からテーマを知ることはできませんが、コラムには金融安定性への懸念が短く示されています。金融安定性への懸念を事前に、かつ具体的に表現するのは困難で、あいまいな表現となりがちですが、過去において金融引き締めが長期化した場合に(時々)金融安定性が損なわれることが発生してきました。米国などは金融が既に引き締め水準とみられ、仮に金融引き締めが市場の想定より長期化した場合には、思わぬリスクがあることにも注意を払う必要もありそうです。

今回のIMFの世界経済見通しでは悲観は後退したものの、前向きに転じるにはまだ確認するべきこともあると見ています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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