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- ユーロ圏インフレ率の迷いどころ
ユーロ圏のインフレ指標である消費者物価指数(HICP)の2月分が発表されました。変動の大きい項目を除いたコア指数は前月を上回るなど、物価が落ち着いた状況には程遠いことから、欧州中央銀行には物価抑制への対応が求められると思われます。ただし、物価の内容の解釈には注意を要する面もありそうで、柔軟な構えが必要となりそうです。
2月のユーロ圏消費者物価指数はコア指数が上昇傾向を維持
欧州連合(EU)統計局が2023年3月2日に発表した2月のユーロ圏の消費者物価指数(HICP)は前年同月比8.5%上昇と、1月の8.6%上昇を下回るも、市場予想の8.3%上昇を上回りました(図表1参照)。変動の大きい食料品やエネルギーを除いたコアインフレ率は2月が前年同月比5.6%上昇と、市場予想の5.3%上昇、1月の5.3%上昇を上回りました。
エネルギー価格高騰の落ち着きを受け、HICPは前年同月比ベースでは1月を下回り、減速しました。しかし、サービス価格などの上昇を背景に2月のコアHICPは前年同月比で5.6%上昇と勢いは衰えていないことが確認されました。欧州中央銀行(ECB)はインフレを注視すると見られます。
エネルギー価格は鈍化するも、食料品やサービスが物価を押し上げ
2月のユーロ圏のHICPをエネルギー、サービス、食料品、さらにテレビのように生産された財の4つの項目に分け前年同月比で推移を振り返ります(図表2参照)。まず目につくのは天然ガスなどを含むエネルギー価格の下落です。HICP減速の主な要因と見られます。しかし、食料品価格は2月が15.0%上昇し、先月の14.1%上昇を上回りました。HICPの減速が鈍った要因とみています。
食料品とエネルギーを除いたコアHICPの動向をECBは注目していますが、主な構成項目である財とサービスを見ると、財は6.8%上昇と、先月からほぼ横ばいでした。
一方サービスは2月が4.8%上昇と、1月の4.4%上昇を上回りました。水準は財に比べ低いものの、確実に押し上げている印象です。サービスの項目に含まれる価格は賃金に左右されるものが多く、今後のサービス価格を占ううえでは賃金動向に注意が必要です。ユーロ圏の賃金動向を反映する交渉賃金は昨年10-12月期が前年比2.9%上昇と比較的落ち着いています。ECBの評価も足元の賃金は抑制されていると指摘しています。しかし、食料品など生活に直結する価格が上昇傾向となる中、潜在的賃金上昇圧力は高いと思われます。
なお、ユーロ圏のインフレ率は国による違いに注意も必要です。2月の速報値は発表途中で一部の国は未発表です。そこで1月を棒グラフに、2月を発表済みの国について点で示すと、ドイツ、フランス、スペインなどは2月の数字が1月を上回っています(図表3参照)。また6%弱のスペインから、20%を超えるラトビアまで国によってインフレ率の違いが大きいのも特徴です。これはエネルギー依存度の差や、各国が実施した価格抑制政策の違いなどが国別のインフレ率の差に反映していると見ています。国によるインフレ率の違いが金融政策に与える影響にも注意が必要です。
ECBの議事要旨によると、コアインフレ率について議論が行われた模様
ECBは3月16日に政策理事会の結果を発表する予定です。最近のインフレ指標などを受け、市場では3月の0.5%の利上げ幅はほぼ確実で、加えて5月も同様の利上げ幅を予想しています。また、政策金利の最終到達点は4%近くが見込まれているようです。
ECBの姿勢を前回理事会(2月1日、2日)の議事要旨で振り返ると、5月の金融政策について利上げ幅を0.5%とするのか、0.25%とするのか意見が割れていたようです。会見でECBのラガルド総裁は3月については明確に0.5%の利上げ幅を示唆した一方で、その先についてあいまいであったのは、このような背景があったためと見られます。
議事要旨によると、物価についてはコアインフレの議論が活発であったようです。その中には、コアインフレの動向に注意を払いすぎることへの懸念も示されています。議事要旨に具体的には示されていませんが、米国ではエネルギーなど変動の大きい項目を除いたコア指数であっても変動が大きい品目があると指摘しています。おそらく米国における中古車価格の変動などが頭にあるのではと思われます。2月も上昇を続けたコアのインフレ率に3月の政策理事会でも検討が求められそうです。
ただし議事要旨ではユーロ圏の景気に底堅さが見え始めたこともあってか、2月の政策理事会では、景気などに配慮して政策金利の引き上げ過ぎを懸念し始めるのは時期尚早と述べられています。この物価抑制を優先する姿勢は3月の政策理事会でも維持されるものと見ています。
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