Article Title
タカ派化するECBにインフレ期待低下は朗報か?
梅澤 利文
2023/03/09

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

次回、3月のECB政策理事会での利上げ幅は大方が0.5%を見込んでいます。しかし5月以降については議論が分かれています。筆者は金融政策の先行きを占ううえでインフレ期待の動向に注目しています。インフレ期待は様々な要因の影響を受けやすく、不安定です。そうした中、ECBは当面はタカ派姿勢を維持しながら、インフレ期待の低位安定化を目指すと見られます。




Article Body Text

ユーロ圏のインフレ期待は低下するも、足元の物価圧力は根強い

欧州中央銀行(ECB)は2023年3月7日に消費者期待調査(Consumer Expectation Survey、CES)を発表しました。ユーロ圏の消費者のインフレ期待(期待インフレ率とも呼ばれるがインフレ期待を使用)や所得、支出などの見通しなどがCESに示されています。CESで3年先のインフレ率が大幅に低下したことなどを受け、ユーロ圏国債利回りの指標的な銘柄となっているドイツ(独)10年国債利回りは若干低下しました(図表1参照)。

しかしながら、政策金利の動向をより反映する傾向がある独2年国債利回りは上昇傾向を維持しています。ユーロ圏の物価上昇圧力は足元持続しています。CESでインフレ期待に一部低下がみられても、引き締め姿勢の変化は限定的でした。

消費者のインフレ期待は1月に急低下した

ECBはインフレ期待の目安として、5年先5年物インフレスワップフォワードなど市場に近いデータを参照しています。しかし、インフレ期待を把握するには消費者の意識も参照する必要があります。その意味でCES(図表2参照)はユーロ圏の消費者のインフレ期待を知る調査とみられます。

もっとも、CESが始まったのは3年ほど前で、データの積み上げが少ないなど問題は残ります。サンプル人数も拡大中ですが、ユーロ圏全体で1万人を超えた程度です。

ただし、CESの1月調査が発表された7日の市場では、ユーロ圏の10年国債など長期債の利回りに低下がみられました。CESで注目されたのは3年先の見通しで、12月調査の3%から1月は2.5%と大幅に低下したからです。CESが開始された当初ユーロ圏の消費者のインフレ期待は2%程度でした。しかし物価上昇圧力を受け、この1年は3%前後にインフレ期待が上昇していただけに、インフレ期待の抑制も重視するECBにとっては朗報です。

なお、5年先から5年間のユーロ圏のインフレ期待を反映する5年先5年物インフレスワップフォワードは足元急低下しています(図表3参照)。ユーロ圏の景況感指数の悪化など様々な要因が考えられますが、CES発表の時期とおおむね重なる時期に同フォワードレートが、依然高水準ながら、低下したように見られます。

タカ派姿勢は当面必要だが、先行きの不確実性は高い

インフレ期待は低下するも現在市場が織り込んでいる金融政策予想に与える影響は限定的とみられます。消費者物価指数、とりわけ変動項目を除いたコア消費者物価指数が直近の2月分で前年同月比5.6%上昇と勢いが衰えない中で、ECBがタカ派(金融引き締めを選考)姿勢を継続する可能性が高いとみられるからです。先のCESでも1年先のインフレ期待は小幅な低下にとどまることからも、短期的にはインフレ抑制が最優先と思われます。したがって、次回3月のECB政策理事会に加え、5月の理事会でも0.5%の利上げを筆者は予想しています。

ECB政策理事会はその後6月、7月が予定されています。タカ派のECBメンバーであるホルツマン・オーストリア中銀総裁は(コアインフレ率が同水準なら)7月まで4回0.5%の利上げを支持する考えを述べています。もっとも時々ホルツマン総裁の発言はコアインフレ率の前提条件なしに4回の0.5%だけが先走っている点に注意は必要です。


一方、ビスコ・イタリア中銀総裁は将来の長期にわたる利上げについての私の同僚からの発言は歓迎できないと述べています。7月が長期なのか議論のあるところですが、会合ごとに政策金利を決めるというECBのフォワードガイダンスから、あまり将来を示唆することにはやや違和感も残ります。

先のCESでは消費者は今後1年の支出見通しも最新の1月調査で引き下げています。この意識がどの程度景気やインフレを押し下げるのか、確認する必要もあると思われます。5月程度までの引き締めは視野に入りますが、その先はデータ次第とするスタンスを維持したいと考えています。その中で、インフレ期待の低位安定を見守ることが必要とみています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


米5月のCPI、インフレ鈍化へ流れを引き戻したが

インド総選挙を終えた後のインド中銀の出方

5月の米雇用統計の強さと今後のポイント

ECB:市場予想通りの利下げ、注目は次の一手

メキシコ:選挙結果で市場は大荒れ、その背景は

フランスの格下げは何が理由だったのか