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米雇用統計は3月利上げ幅拡大の支持には力不足
梅澤 利文
2023/03/13

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概要

2月の米雇用統計は非農業部門の就業者数が市場予想を大幅に上回るなど、引き続き堅調な結果となりました。しかしながら、平均時給の伸びは前月比で見ると緩やかでした。FRBが注目するサービスセクターの物価動向は賃金に大きく左右されることから、仮に賃金のピークアウトが鮮明となれば、物価抑制に寄与する可能性も考えられます。雇用と賃金の今後の展開に注目しています。




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 2月の米雇用統計で、非農業部門の就業者数は市場予想を上回るが

米労働省が2023年3月10日に発表した2月の米雇用統計によると、非農業部門の就業者数は、2月が前月比31.1万人増と、市場予想の22.5万人増を上回りました。前月は50.4万人増と速報値の51.7万人増から下方修正されました。部門別に就業者の動向を見ると、増加した主な部門は、娯楽・接客、政府、教育・医療、小売りなどです(図表1参照)。

失業率は3.6%と、市場予想の3.4%、前月の3.4%を上回りました。

平均時給は前月比0.2%上昇、1月の0.3%上昇を下回りました。前年同月比では4.6%上昇と底堅い動きでした。

米雇用統計は堅調な内容ながら、賃金上昇鈍化を示唆する内容も

米国の一部銀行の経営破綻などを受け、10日の市場で米雇用統計は主役の座を譲ったようにも見えます。2月の米雇用統計は市場予想を大幅に上回った非農業部門の就業者数や、前月に比べ上昇したものの依然低水準な失業率などに底堅さがうかがえます。しかし、3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ幅を0.5%に拡大することを支持するには不十分と思われます。

まず、市場予想を上回った就業者数ですが、部門別では娯楽・接客、政府、教育・医療など特定の部門での伸びが目立ちました。各部門で幅広く雇用が増えているように思われません。また、採用に先行する傾向がある人材派遣が低調だったのも気になるところです。

次に、平均時給は前月比0.2%上昇と減速し、賃金上昇圧力にわずかながら落ち着きの兆しが見られました。賃金上昇を部門別にみると、上昇が懸念されているサービス部門の平均時給は2月が前月比約0.2%上昇にとどまりました(図表2参照)。

なお、サービス部門を構成する個別部門別に平均時給の伸び見ると、運輸・倉庫のように大幅な伸びを示す部門もあるなどサービス部門の賃金が再加速する可能性はあります。ただし、これまで賃金押し上げ要因であった転職者の賃金を別の統計で見ると、ピークアウトの兆しもうかがえます。慎重な判断は求められますが、賃金動向に変化の兆しもあり、引き続き注視が必要です。

地味な指標の改善として、労働参加率と週平均労働時間の正常化があげられます(図表3参照)。両指標とも、コロナ禍前は変動が小幅で、注目度は低い指標です。しかし、コロナを境に両指数の変動が大きくなっています。労働参加率は平たく言えば、人口に対する働く人の割合であることから、労働参加率の低下は、雇用市場から退出した人が増えたことを示します。これが賃金上昇の要因の1つと見られてきました。労働参加率はコロナ前の水準を下回りますが、2月は62.5%と、過去の正常な水準に近づきつつあります。

また、労働参加率の低下による人手不足を労働時間の長さでカバーされていたとしたら、2月の平均労働時間が示す低下傾向は歓迎すべき動きなのかもしれません。両指数が正常化するのか、今後の推移を見守る必要性は高いと見ています。


2月の米雇用統計と銀行破綻による金融政策への影響

金融政策への影響をどのように考えるべきでしょうか。10日には米国銀行の経営破綻もあり、積極的な利上げは控えるとの観測から、米国債利回りは急低下しました。銀行破綻がなく雇用統計だけならば、大幅利上げの可能性も残されるとの考えもありそうです。しかし、堅調な労働市場を受けての利上げの累積効果が銀行破綻の要因であると見るのであれば、分けて考えるなど意味がないと思います。以前から述べてきたように、現在はインフレ抑制と景気悪化を防ぐバランスの取れた政策運営が求められる局面と見ています。

なお、銀行破綻について、米財務省と米連邦準備制度理事会(FRB)、米連邦預金保険公社(FDIC)が共同声明を公表し、預金者を完全に保護する方法で破綻処理を完了する方向です。これで市場の不安が収まるのか、今後の展開を見守る必要はあります。楽観的なシナリオは今回の複数の銀行破綻は特殊事情で金融システム全体には及ばないと市場が認識することでしょう。もっとも、そのように確信するまで時間は必要です。今週発表が予定されている消費者物価指数など今後の経済指標次第で展開は変わりますが、2月の米雇用統計が大幅利上げを即断即決させるほど強い内容でなかったのは、むしろ幸いであったのかもしれません。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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