Article Title
IMFは世界経済を不安定な回復と分析
梅澤 利文
2023/04/12

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

IMFは最新の世界経済見通しを公表しました。前回1月の見通しでは、欧州が暖冬などで景気後退を回避するとの期待や、中国の経済再開、インフレ鈍化への期待などから上方修正されました。しかし、コアインフレ率が低下しにくいことや、金融不安などを受け世界経済見通しにおける回復期待はやや後退しました。その上、金融不安の今後の展開は読みづらく、警戒心は当面怠れないようです。




Article Body Text

IMF、今回の経済成長見通しを不安定な回復とし、経済成長率を下方修正

国際通貨基金(IMF)は2023年4月11日、最新の世界経済見通し(WEO)を発表しました(図表1参照)。23年の世界経済成長率を2.8%と、前回1月の見通しから0.1%引き下げました。金融不安による金融引き締めがロシアのウクライナ侵攻などの悪材料に上乗せされたと説明しています。IMFは24年の世界経済成長率見通しも前回から0.1%引き下げました。インフレ鈍化や中国の経済再開を背景に小幅ながら上方修正した前回から、一転して景気に対し慎重な見方となっています。

今年の成長率予想を国別にみると、米国の成長率予想は1.6%と、前回から上方修正されましたが、日本は1.3%に下方修正されました。

IMFは中期的な成長予想も引き下げている

IMFは今回の世界経済見通しを発表する前の4月6日にゲオルギエワIMF専務理事が講演で、今後5年間の世界の経済成長率見通しを約3%と予測していると述べています。これは中期成長予想としては1990年以来の低さで、当面の景気回復の鈍さが示唆されています(図表2参照)。

今回のWEOで、地域別に成長率を見ると、回復の鈍さは主に先進国が影響しています。1月との比較では先進国は小幅上方修正されていますが、先進国の経済成長率が昨年の2.7%から半減したのに比べ、新興国の落ち込みは小幅であると指摘しています。

なお、日本は前回から0.5%も引き下げられています。この数字は先月31日にIMFが公表した対日経済審査の年次報告書と同じ数字です。同報告書は下方修正の理由として、設備投資の低下などを指摘しています。

代替シナリオでは世界経済の成長率はさらに0.3%押し下げられる見込み

図表1に示したIMFの経済成長率見通しはメインシナリオに基づいて予測されています。その主な前提として、先月発生した金融不安は概ねコントロールされ世界景気に深刻な影響を及ぼさず、世界的な景気後退は回避されるとしています。また、コモディティ価格は需要後退を反映して下落基調が想定されています。例えば原油価格は今年は24%、24年は5.8%の下落を前提としています。なお、政策金利は、インフレが想定より長期化しているため、昨年10月時点のWEOにおける想定より引き締め気味を前提としています。

一方で、WEOは金融不安をある程度の悪化を起こしうる(代替)シナリオも示しています。そのシナリオの前提としてIMFは、金融ストレスや金融規制の強化による銀行の貸出し抑制、信用スプレッド拡大などによる金融引き締め効果の成長率抑制などを挙げています。その程度を、メインシナリオからの低下幅で見ると(図表3参照)、世界経済全体では23年の成長率見通しはメインシナリオの2.8%から概ね0.3%低い約2.5%に低下するとIMFは説明しています。このように図表3を見ると、金融不安の影響は米国などに大きく、中国など新興国への影響は相対的に低く見積もられていることがわかります。

しかし、図表3は確率的に起こりえる代替シナリオとして用意されており、比較的起こる可能性が高いシナリオと見られます。しかしながら、仮に思いのほか状況が悪化した場合のリスクシナリオは別に用意されています。リスクシナリオでは、金融不安の影響が幅広く、景気を押し下げることを前提としています。IMFのリスクシナリオを見ると、25%の可能性で23年の世界経済成長率見通しは2%を下回ると説明しています。なお、世界の成長率が2%を下回ったのは70年以降から2020年までで5回しか起きていない、まれな低成長です。


さらに15%の確率としているより悲観的なシナリオでは、23年の世界の成長率は1%を下回ると見込んでいます。

足元の市場の落ち着きからは、市場もメインシナリオか代替シナリオをおそらく想定しているものと見られますし、またその可能性が高いと筆者も思います。ただし、金融不安は先が見通しにくい問題であるだけに、常に心の準備だけは怠らないようにするべきと思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


インドネシア中銀、サプライズ利上げの理由と今後

4月のユーロ圏PMIの改善とECBの金融政策

米国経済成長の背景に移民流入、その相互関係

IMF世界経済見通し:短期的底堅さを喜べない訳

ベージュブックと最近のタカ派発言

中国1-3月期GDP、市場予想は上回ったが