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- ECB、まだやるべきことがある
欧州中央銀行(ECB)は5月の政策理事会で利上げ幅を縮小したものの、インフレ抑制姿勢は維持することを示唆しました。直近のユーロ圏のインフレ指標はサービス価格などが上昇傾向を維持していることから、利上げ継続が金融政策の基本路線と見られます。しかしながら、ECBはこれまでの利上げの影響も指摘しており、利上げ継続の期間が今後の注目点と見られます。
ECBは5月の政策理事会で利上げ幅を縮小するも、引き締め姿勢は継続
欧州中央銀行(ECB)は2023年5月4日に政策理事会(以後、理事会)を開催、政策金利の0.25%引き上げを決定しました(図表1参照)。今回の引き上げで主要政策金利は3.75%、銀行が中央銀行に預ける際の金利(預金ファシリティ、実質的な政策金利)を3.25%としました。ECBは前回3月までの0.5%の利上げから3会合ぶりに利上げ幅を縮小しました。なお、量的金融緩和策(資産買入プログラム、APP)で膨らんだ保有資産の圧縮について、ECBは7月に償還金の再投資を終える予定であると発表しました。ECBは今年3月から6月にかけて月150億ユーロ(約2.2兆円)規模で削減することを既に発表しています。今回は7月以降の保有資産削減の方針を示した格好です。
ユーロ圏のインフレ見通しはあまりに高く、あまりに長い
ECBは今回の理事会で利上げ幅を縮小しましたが、発表内容をトータルで判断すれば、ECBは次回以降の理事会でも利上げの可能性が高いなどタカ派(金融引き締めを選好)姿勢であったと見ています。ECBのタカ派姿勢は次の点に示されています。
まず、ECBのラガルド総裁は会見の冒頭でインフレ見通しがあまりに高く、あまりに長いと指摘し、インフレ抑制が政策の優先順位として高いことを示唆しています。また、会見の中でラガルド総裁は(インフレに対し)まだやるべきことがあるとのコメントを何度も強調している点があげられます。
ユーロ圏のインフレ動向に警戒スタンスを維持しています。月初に発表されたユーロ圏の4月の消費者物価指数(HICP)は変動項目を除いた基調インフレであるコアHICPは4月が前年同月比5.6%上昇と前月の5.7%上昇を下回りました(図表2参照)。しかしラガルド総裁は基調インフレは依然として高いと引き締め姿勢をゆるめませんでした。
なお、HICPをエネルギー、食料品、財、サービスに分類すると、生活に直結する食料品は高水準で推移してきましたが、4月は前年同月比13.6%上昇と前月の15.5%上昇を下回りましたが、ラガルド総裁は今後の展開を見守るのみと述べ、ピークアウトへの期待を否定しています。また、サービス価格は4月が5.2%上昇と前月(5.1%上昇)を上回りました。ラガルド総裁も需要回復と賃金上昇などがサービス価格の押し上げ要因となることを会見で指摘し、警戒感を示しています。
APPの再投資停止予定も、タカ派的と見られます。再投資が停止された場合、ラガルド総裁は平均して月250億ユーロが償還により保有額が縮小すると説明しており、現在の削減ペースを上回るからです。もっとも、7月からの再投資停止を予定と表現するなど、保有資産縮小については未確定の内容も残されている点に注意は必要です。
ECBがタカ派姿勢を維持していることからは、当面利上げ姿勢を維持することが想定されます。
ECBが利上げ幅の縮小を迫る要因に注意も必要
今回の理事会で数人が0.5%の利上げ幅を支持した模様ですが、0.25%に縮小されたように、タカ派姿勢のコメントと裏腹に、ユーロ圏に利上げ幅の縮小を迫る要因も見られます。例えば、声明文ではこれまでの利上げが資金調達などに影響していることを指摘しています。
この点をECBの4月の銀行貸出調査で確認すると、ユーロ圏の貸出態度が前回より厳格化していることがうかがえます(図表3参照)。厳格化し始めた時期は概ねECBが利上げを開始(昨年7月)した頃と重なります。また、足元では金融不安が貸出態度に影響する可能性も考えられます。ユーロ圏の金融不安は米国ほどではないとの見方もできますが、今後の展開に注意は必要です。
貸出態度の厳格化に加え、景気回復も緩やかであることから、融資需要は大幅に減少しています。4-6月期の融資需要はマイナス37.9%程度でしたが、過去においてはリーマン・ショック時の2009年前半や、欧州債務危機の2012~13年に相当する水準です。
ECBは今回の理事会後の会見で、利上げ継続を示唆しましたが、今後のデータ次第では残された利上げ回数は1~2回程度となる可能性もあるとみています。
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