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ECB政策理事会、事前の予習
梅澤 利文
2023/06/07

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概要

欧州中央銀行(ECB)は6月15日の政策理事会を前にブラックアウト期間(静かな時期)となります。インフレ率は物価目標水準の2%を大幅に超えており、利上げ継続の可能性は高いと思われます。ただし、利上げ局面が終わりに近いのか、それとも当面利上げを継続するのかについてECB内部でも意見の相違があるようです。ECBの6月以降の金融政策運営に注目しています。




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ユーロ圏の期待インフレ率はまちまちの結果

欧州中央銀行(ECB)が2023年6月6日に発表した月次の消費者期待調査(CES)によれば、向こう1年間の期待インフレ率は4月が4.1%と、3月の5%を下回りました(図表1参照)。今後3年間では2.5%と、3月の2.9%から低下し、ECBの中期インフレ率目標である2%へと近づきました。

CESはECBが消費者を対象にしたオンライン調査により、期待インフレ率や経済成長率や所得の見通しなどを集計したものです。一方、ECBは市場ベースの5年先から5年間のユーロ圏のインフレ期待を反映する5年先5年物インフレ・スワップフォワードを参照しています(図表2参照)。同レートは足元2.5%前後で高止まりしています。

ECBの政策理事会を前に、インフレ動向を巡り様々な指標が見られる

ECBは6月15日に政策理事会を開催予定です。筆者も含め、市場は大半が6月と、次の7月の理事会で各々0.25%、政策金利を引き上げることを見込んでいます。ただし、予想には幅もあり不確実性が高いこともうかがわせます。その要因をいくつか振り返ります。

まず、インフレ率を消費者物価指数(CPI、欧州連合(EU)基準、HICP)で見ると、5月は前年同月比で6.1%上昇とピークアウト感は見られます。しかしコアCPIは5月が5.3%上昇と、前月を下回ったものの依然高水準です。また、5月はドイツの鉄道割引券の影響なども反映した可能性があるなど注意すべき点もあります。ピークアウトと判断するにはもう少し時間が必要と思われます。

ECBが伝統的に注目してきた市場ベースの期待インフレ率である5年先5年物インフレ・スワップフォワードは足元2.5%で、過去の水準に比べ高止まりしています。多くのECB高官がインフレへの警戒感を示す理由の一つでもあるとみています。

一方、消費者への調査により期待インフレ率を把握するCESは4月分が1年先、3年先ともに前月を下回り落ち着きを示しました(図表1参照)。もっとも、CESは調査ベースということもあり、変動が大きくなるケースがある点に注意は必要です。

なお、CESは20年からECBがデータ提供を始めている新しい指標です。その分、データの蓄積に乏しいという問題があります。しかしデータは長い5年先5年物インフレ・スワップフォワードレートが期待インフレ率の代替として十分なら、新たにCESを作成する必要はないと思われます。単一の指標で把握するのが困難な期待インフレ率に対し、様々な指標でアプローチしていると認識しています。

インフレ率は、賃金引き上げによる上昇圧力で、高まる可能性もある

ECBの政策目標はインフレ率なので、指数それ自体が重要です。しかし、例えば企業が価格設定をする際や、賃金を交渉するときなどは将来の価格を考慮しているケースもあり、期待インフレ率に注意を払うことにも意義はあると思います。

なお、インフレ率の動向に今後重大な影響を与えると考えられ妥結、または交渉賃金と呼ばれる同指数は22年10-12月期は2.9%増と高水準でしたが、23年1-3月期はこれをさらに上回る水準となる模様です。もっとも賃金データは足元で1-3月期分が出そろい始めるというように、発表が遅い点に注意は必要です。

最後に、ユーロ圏の景気の先行きを景況感指数で確認すると、景気回復への期待は勢いが鈍くなっています。ドイツの調査会社センティックスが6月5日に発表したユーロ圏の6月のセンティックス投資家信頼感指数はマイナス17と、市場予想のマイナス15.1、前月のマイナス13.1を下回り、ユーロ圏景気の先行きへの警戒感が強まりました。深刻な景気後退は回避できる可能性はある一方で、ドイツのように形式的には景気後退となっている国もあります。低空飛行が続くものと思われます。

このような中、ECB内部の意見も集約できておらず、ナーゲル・ドイツ連邦銀行総裁のように6月、7月と利上げを続けた後も、ピークに達していない可能性を指摘するタカ派(金融引き締めを選好)がいる一方で、フランス銀行(中銀)のビルロワドガロー総裁は残りの利上げは比較的小規模になることを支持しています。両者とも利上げを続ける点では共通していますが、タカ派はまだまだ利上げが必要と主張しているのに対し、ビルロワドガロー総裁らは利上げ最終局面に近いことを強調しています。筆者は、これまでの論点を整理すれば、今後のデータ次第ながら、ユーロ圏の利上げは終わりが近いと見ています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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