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- FRBパウエル議長のリセッション回避とは
景気後退は単にマイナスの成長率が続くのではなく総合的な判断が本来の定義で、判断材料には失業率など各種労働指標などが含まれます。パウエル議長は7月のFOMC後の会見で景気後退回避の可能性を示唆しました。堅調な経済指標と最近のインフレ率の鈍化から、そのようなシナリオが実現する兆しは見られます。今後はこのようなシナリオの背景をデータで確認することが一層求められそうです。
7月のFOMCは市場予想通りの利上げで、会見も新鮮味に乏しい内容
米連邦準備制度理事会(FRB)は2023年7月25日-26日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、市場予想通り0.25%の利上げを全会一致で決定しました(図表1参照)。22年3月の利上げ開始以降の引き上げ幅は計5.25%です。
声明文に前回(6月FOMC)と大きな違いはなかったものの、景気認識は若干上方修正されました。
FOMC後の記者会見でFRBのパウエル議長は次回(9月)のFOMCで利上げか据え置きかはライブ(データ次第)と説明しました。また、米国経済の減速が年内に始まると予想するものの、最近の堅調な経済指標などを背景に、景気後退(リセッション)回避の可能性について言及しています。
コロナ禍前後で変わる、インフレと失業率の関係
7月のFOMCでの利上げは確実視されていたことから、興味は9月以降のFOMCでの利上げの有無や、利下げ開始の時期にシフトしています。しかし声明文やパウエル議長の会見に今後の金融政策について新たな材料は乏しく、データ次第の色合いが濃くなっています。9月は利上げ、据え置き両方の可能性を選択肢として残しています。
そうした中、パウエル議長は会見で経済の軟着陸(ソフトランディング)についての質問に対し、大幅な失業を伴わずにインフレ率が低下する可能性を示唆し、景気後退を予測していないことを明らかにしました。
そこで、最近のFRBの調査などを参考に失業率とインフレ率の関係を簡単に振り返ります(図表2参照)。図表2はインフレ率として前年同月比の個人消費支出(PCE)価格指数と失業率の散布図を2000年1月からコロナ禍前の19年12月までをプロットしたものです(局面1)。
局面1ではインフレ率は2%前後で推移した一方、失業率は景気動向などを反映して比較的幅広く推移しています。結果として横に広がった分布となっています。
なお、インフレ率と失業率の関係は一般にフィリップス曲線と呼ばれ、インフレ率と失業率に右肩下がりの関係が想定されています。しかし、局面1の頃はグローバル化や技術革新、または中央銀行の物価目標政策などにより、インフレ率が2%前後で安定していた可能性があります。FRBが公式にインフレ目標の2%を導入したのは12年ですが、それ以前から「暗黙の了解」として同水準を意識した政策運営がされていたとみられます。
何がインフレ率を安定化させる要因であったかの議論は残されていますが、このころのフィリップス曲線は平たん化が特色となっています。
労働市場の悪化は限定的で、インフレ率が低下する局面に期待する
次に、局面2(図表3参照)として21年におけるインフレ率と失業率の推移を確認します。21年前半、インフレ率の上昇は一時的とみられていましたが、後半はインフレ率の上昇が加速、一方で失業率は労働供給不足を背景に低下したことから、21年末に向け、プロットは左上方に向かう傾向となりました。
足元までのインフレ率と失業率の状況を局面3(図表4参照)で確認します。縦軸のインフレ率が全体に高水準である一方、失業率は3.5~4%の狭い範囲に分布しています。局面3では労働市場がタイトな状況が続く中、賃金が高止まりしたことなどが分布の背景とみられます。
ここで局面3における足元(23年5月)の位置を確認すると、図表4では■で示した点となります。分布の中でインフレ率は低下する一方、失業率が変わらないことから、真下に落ちる格好となっています。仮にこの状況が続くならば、インフレ率の低下が引き起こす失業率上昇は限定的となることも期待されます。反対に、例えば局面2のような分布形状であると、縦軸のインフレ率の低下に応じて横軸の失業率が上昇することが想定されます。
当レポートでは労働市場とインフレ率の関係をイメージするため失業率とインフレ率を用いましたが、他の変数を使用した調査でもインフレ率の低下が、しばしば景気後退を伴う労働市場を悪化させる程度は限られると当局は予測し始めているようです。
インフレ率と労働市場の関係はその背後関係を理解することがより重要で、当面は様々なデータを見守る必要がありそうです。
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