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- 米国格下げ、災害は忘れたころにやってくる?
フィッチは米国の債務上限問題の展開が不透明であった5月に、米国にネガティブウォッチを付与しました。数か月の検討期間を経て結論(格下げか見送り)を出すのが通常で、アクションがとられたことには不思議はありません。しかし、債務上限問題は過去のニュースという印象で、タイミング的に違和感は残ります。ただし米国の財政運営に問題点が全くないわけではなく、今後の展開に注意は必要です。
格付け会社フィッチ、ネガティブウォッチの結論は格下げ
格付け会社フィッチ・レーティングス(フィッチ)は2023年8月1日に米国の長期債格付け(自国通貨建て、外貨建て共に)等をAAAからAA+に格下げしました。見通しは安定的(ステーブル)としています。一方、自国通貨建て長期発行体デフォルト格付け等に対して今年5月に付与したネガティブウォッチ(格下げ方向で検討)は取り除きました。
フィッチは声明で米国を格下げした背景として、米政府の財政状況が今後3年間でさらに悪化する見通しであることや(図表1参照)、過去20年にわたり債務上限をめぐる混乱と土壇場での解決が繰り返され、米国の財政運営に対する信頼が損なわれていることなどを挙げています。
米国の財政状況は悪化の兆しもあり、注意は必要
フィッチは5月24日に米国に格下げを検討するネガティブウォッチを付与しており、格付けの引き下げ、もしくは見送りの、どちらかの結論が出されることとはなっていましたが、このタイミングでの格下げにはやや違和感も残ります。声明文で格下げ理由として債務上限を巡る混乱を指摘しています。タイミングとして、債務上限はもう終わった話という印象が市場では強いかもしれません。
米国国債の発行残高をみると、債務上限の問題に直面すると、発行が抑制されてきました(図表2参照)。債務上限をめぐり土壇場での解決が繰り返されてきたことは確かですが、別の見方として、債務拡大に対しチェック機能が働いている面を過小評価すべきではないのかもしれません。
ただし、今回フィッチが格下げをしたタイミングにおいて、米国財政の資金繰りに疑問も投げかけられそうな報道が出されています。
例えば、財務省が2日に発表する四半期定例入札予定では、発行総額を960億ドル(約13兆7000億円)から1020億ドルに引き上げることが見込まれていると報道されています(図表3参照)。コロナ禍への対応で財政支出が拡大した後、米国債発行はピーク時に比べ減少しましたが、歳出拡大や利子返済額の増加などを受け債務返済額が増加していることが背景とみられます。
フィッチの推定では、米連邦政府の財政赤字対GDP(国内総生産)比率は、歳入の減少と歳出や利払い費用増加を受け、23年が6.3%と22年の3.7%から拡大(悪化)すると見込んでいます。
格下げそのものより米国の財政運営に注意が必要
フィッチによる米国の格下げそのものは、格付け会社の判断であり、受け入れる以外にありませんが、市場の受け止め方は様々です。比較として米国が別の格付け会社である、S&Pグローバル・レーティング(S&P)により2011年に格下げされた時に比べると、全般にショックは小さいようです。S&Pの格下げは債務上限問題解決直後の生々しいタイミングであったことに加え、なによりも米国が事実上初めてAAA格を失うというショックもあり、市場は大きく反応したと思われます。
なお、ムーディーズ・インベスターズ・サービスは米国をAAAに相当するAaa格に据え置き、見通しも安定的としています。
ただし、格下げで改めて焦点が当たる格好となった米国の財政状況には注意が必要です。市場でも米国国債の需給悪化に注意が払われているとみられます。来週に予定される10年国債入札の消化状況がまずは目先の注目点とみています。
また、中長期的には歳出削減の有無も焦点となりそうです。米国議会は夏季休暇入りしましたが、9月の議会再開からは、個別案件の動向に注目が必要です。
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