Article Title
インドネシア、政策金利と米国債利回り上昇の影響
梅澤 利文
2023/10/04

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

インドネシアルピアは、インドネシア中銀の高金利政策などを背景に年前半は概ね対ドルで堅調でした。しかし、米国の金融引き締め姿勢が強まるとともに下落傾向に転じています。インドネシアのインフレ率は大幅に低下しており、南米の一部の国のように利下げを考えても不思議ではない水準ですが、米国債利回りの動向が不透明な中、ルピア安を抑制するため、当面は政策金利の据え置きが想定されます。




Article Body Text

インドネシアの消費者物価指数、昨年急上昇の反動で低下

インドネシア統計局が2023年10月2日に発表した9月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比で2.28%上昇と、市場予想の2.23%上昇におおむね一致し、前月の3.27%上昇を下回り、22年2月以来の低水準となりました(図表1参照)。

変動の激しい食品価格や政府の統制価格を除くコアCPIは9月が2.00%上昇と、市場予想の2.06%上昇、前月の2.18%上昇を下回りました。

インドネシア中央銀行の23年の物価目標の範囲は2~4%で、インフレ率は下限付近となりました。ただし、足元の低下は昨年9月に政府が補助金付き燃料の価格を引き上げたことでCPIが6%近くまで上昇したことの反動が原因とみられます。

ルピアは主に政策金利と米国債利回りの動向に左右されてきた

インドネシアの通貨ルピアは今年前半までは概ね上昇基調でした。インドネシア中銀は昨年8月に政策金利を3.5%から3.75%に引き上げ利上げに転じ、今年1月に5.75%にまで引き上げた以降は政策金利を据え置いています(図表2参照)。しかし23年夏ごろから米国債利回りの上昇に伴う形で、ルピア安傾向に転じています。

インドネシア中銀の金融政策と米国債利回りがルピアの主な変動要因となっていますが、他の要因も含め主なポイントを整理します。

まず、インドネシア中銀の金融政策ですが、前回(9月21日)の金融政策決定会合で政策金利の据え置きを決定しています。インドネシアのインフレ率だけをみれば、利下げに転じても不思議ではない水準です。しかし、インドネシアのインフレ率はテクニカルな理由による低下という側面もある一方、食品価格などには上昇懸念もあります。加えて、声明文で明確に指摘しているように通貨ルピアの安定を重視していることから、安易に利下げに転じることはなく、場合によっては来年後半まで据え置きを続ける可能性もあると思われます。

次に、足元のルピアの動向に対する懸念要因は米国債利回りの上昇です。高金利の米国に資本が流入する一方で、資本が流出する構図となっています。もちろん米国金利上昇の影響は新興国に幅広く見られます。インドネシアはインフレ率が低い分、実質金利は相対的に高いとみられますが、それでも影響を免れないとみられます。

なお、インドネシアの4-6月期実質GDP(国内総生産)成長率は前年同期比5.17%増と、前期を上回り堅調でした。インフレ率の低下に伴う消費の回復と、堅調な投資が押し上げ要因となりました。過度に政策金利を引き上げれば投資への悪影響も懸念されることから、米国債利回りの動向に合わせるというよりは、据え置き期間を長期化させてインフレ抑制姿勢を維持するものと思われます。

逆に言えば、ルピアの動向を占ううえでは、インフレ率や米国債利回りの動向に対して適切な金融政策が行われているかを見極めることが今後も大切になると思われます。

ルピアの動向を占ううえで、食品価格や大統領選挙にも注意は必要

金融政策と米国債利回り以外の要因を振り返ります。

まず、インフレ率ですが、足元は昨年の急上昇の反動で低下していますが、今後、食品価格など一部に上昇懸念が残ります。

食品についていえば、インドネシア農業相は今年のコメの収穫量が、エルニーニョ現象による干ばつで、120万トン減少するとの見通しを発表しています。不足分については輸入も選択肢としています。インドネシア中銀も食品価格の上昇にはやや懸念を示しており、コメ以外の他の食品も含め価格動向に注意は必要です。

インドネシアの経常収支は昨年は黒字でしたが、今年は赤字に転ずる可能性もあります。過去にインドネシアは大幅な経常赤字を計上したことなどから、ファンダメンタルズの脆弱な国と言われていました。現在の経常収支は当時とは比べものとならないほど改善していますが、昨年ほど良好ではないようです。

最後に新興国通貨の先行きを占ううえで見逃せない選挙についてです。インドネシアでは来年2月14日に大統領選挙が予定されています。選挙を前に、新興国ではバラマキ政策や、対立激化による政治不安が通貨の下落を引き起こすことがあります。

有力候補は3人ですが、世論調査を見ると支持率でリードしているのはプラボウォ国防相です。プラボウォ氏は14年、19年の両大統領選に続けて立候補し、いずれもジョコ大統領に敗れたライバルです。ただ、政策的にはジョコ大統領の路線を引き継ぐ可能性も報道されています。いまのところ、来年の大統領選挙はルピアの変動要因となっていない模様ですが、今後の動向に注意は必要です。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


インド中銀、金利を据え置きながら方針は「中立」へ

毎月勤労統計に見る日本の賃金動向と金融政策

9月の米雇用統計は堅調、景気後退懸念払しょく

ECB理事会プレビュー、経済指標は利下げを支持

米ISM製造業景況指数と求人件数:まちまちの結果

9月日銀短観、逆風を消化したものの、不安の種も