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IMF世界経済見通し、小幅修正の中のメッセージ
梅澤 利文
2023/10/11

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概要

IMFが今回発表した世界経済見通しの修正は全体の成長率でみると小幅にとどまりました。ただし、国や地域により修正の方向性に違いがあることを指摘しています。一方でインフレ率は22年のピークからの減速感が明確となる一方で、水準は依然高く、インフレ抑制が必要なことを示唆しています。インフレ懸念が根強く残る中、成長率に下方リスクのバイアスを見ているようです。




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IMFは今回の世界経済見通しで、来年の世界成長率を小幅下方修正

国際通貨基金(IMF)は2023年10月10日に四半期に一度の世界経済見通しを公表しました(図表1参照)。24年の世界経済成長率見通しを2.9%とし、7月時点の予測から0.1%引き下げました。なお、23年の成長率見通しは3%で変わらずでした。

個別国・地域について、先進国の中で大幅に上方修正された国は米国(23年2.1%、24年は1.5%と、各々0.3%、0.5%引き上げ)でした。一方、ユーロ圏は今年、来年ともに下方修正されました。

新興国では、中国の成長率見通しが今年、来年ともに下方修正された一方で、ブラジルなどが上方修正され、新興国全体として24年の成長率は、前回から小幅な下方修正にとどまりました。

今回のIMFの見通しは全体に小幅修正だが国・地域に相違がみられる

今回のIMFの世界経済見通しは、世界全体、先進国、新興国ともに前回からほぼ変更がありませんでした。しかし、中身を見ると上方修正、下方修正が含まれ、全体として相殺された格好です。

先進国では米国が、堅調な雇用市場などに支えられた個人消費と、想定を上回った投資、および財政政策の下支えを背景に上方修正されました。ただし、来年は前回の見通しからは上方修正されていますが、賃金上昇の減速や消費の息切れなどを背景に24年の成長率は1.5%と23年を下回ることを見込んでいます。

一方でユーロ圏はドイツ経済が足かせとなっています。IMFはドイツ経済について、金利上昇の影響と、中国など主要貿易相手国の経済不振を背景に23年の成長率をマイナス0.5%と見込んでいます。フランスなどは今年小幅上方修正されたものの、ドイツの下方修正でユーロ圏全体の見通しは引き下げられました。ドイツの来年の成長率は0.9%を見込んでいますが、前回から下方修正されています。

日本の成長率は、インバウンド需要や金融緩和の継続、自動車輸出の回復などで23年は前回から上方修正されましたが、来年は1.0%の成長率に据え置かれています。

新興国も先進国同様、好不調に概ね2分され、中国が今年、来年と下方修正された一方で、ブラジル、メキシコ、南アフリカは反対に上方修正されています。またインドは上方修正は23年だけですが、23年、24年ともに6.3%と比較的高い成長が見込まれています。

IMFは中国の下方修正の背景として、不動産市場問題の悪化と、低調な投資を挙げています。一方で、インドについては堅調な内需を23年の上方修正の背景としています。

なお、新興国ではサウジアラビアの23年の成長率見通しが0.8%と、前回から1.1%も下方修正されました。IMFはその理由として原油減産による生産の落ち込みを価格上昇で補えない点を指摘しています。一方で同国の来年の成長率を4.0%と急回復を見込んでいます。

次に、インフレ率見通しをみると、23年は世界の消費者物価上昇率を6.9%、24年については今回は5.8%と、前回の見通しである5.2%から上方修正しました。背景はエネルギーなど変動の大きい項目を除いたコアインフレ率が高止まりしているためと説明しています。世界のインフレ率は22年の8.7%という高水準からは低下しましたが、大半のIMF加盟国のインフレ率は25年まで中銀の物価目標を上回り続けるとみており、IMFは引き続き、インフレへの警戒を呼びかけています。

長期的な成長率見通しの低下傾向もIMFは指摘している

IMFは世界経済見通しの中で、世界の分断化の影響など様々な分析を提供しています。ここでは、成長率の低下傾向について述べます。IMFは5年後の経済成長見通しを公表しており、23年であれば28年までの成長見通しを公表しています。5年後の世界経済の成長予想を1995年から23年まで示したのが図表2の点線です。2000年から04年までは概ね世界全体で4%強程度の成長が見込まれていましたが、24年から28年では3%前半に低下しています(図表2参照)。

なお、各成長率はIMFによるそれぞれ5年前の予測であるため、悲観的なバイアスが予測値の低下を起こしたということも考えられますが、IMFの実績値と予測値との検証ではそのようなことはないと説明しています。

図表2は成長率を3つのグループ、先進国、主要新興国、所得水準の低い新興国等に3分類して成長率に対する寄与度を示しています。先進国の寄与度の低下が目につきますが、新興国の成長率も長期的に小幅ながら低下傾向にあるようです。

では、何が長期的に成長率を押し下げているのか? IMFは人口の増減というよりも、一人当たりGDP(国内総生産)の低下を主要因と特定し、一人当たりGDPの低下をさらに細かく見ています。浮かび上がるのは先進国では質的な成長要因を示す全要素生産性(TFP)の低下と労働参加率の低下がネックとなっています。これらの要因に続いて資本ストックの割り当て不足も指摘されています。一方で、新興国においても生産を示唆するTFPの低下と、資本ストックの割り当て不足が成長率予想の押し下げ要因となっています。ただし、先進国と異なり労働参加率による押し下げは小幅となっています。生産性を上げる必要があるのに、世界で仲間割れなどしていられない、というのがメッセージなのかもしれません。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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