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中国の主要経済指標と重い課題
梅澤 利文
2023/11/17

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概要

中国の10月の主要経済指標で小売売上高や工業生産は前月を上回りました。ただし、小売売上高の内容を見ると、消費者センチメントの回復が鈍いことなどから、力強さに欠ける印象です。消費者センチメントを悪化させている最大の要因が不動産問題であることは明らかですが、問題解決には時間がかかりそうです。また、中国への直接投資が減っていることも景気回復のマイナス要因と思われます。




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10月の中国主要経済指標はまちまちの内容ながら、全体に伸び悩み

中国国家統計局は2023年11月15日に10月の主要経済指標を発表しました。消費動向を反映する小売売上高の10月分は7.6%増と、9月の5.5%増を上回りました(図表1参照)。飲食店収入の増加などが同指数を押し上げました。

工業生産は前年同月比で4.6%増と、市場予想の4.5%増を上回りました。自動車やスマートフォンなどの生産が下支えしたとみられます。

一方、固定資産投資は1〜10月の年初来前年比で2.9%増と、市場予想、前月(共に3.1%増)を下回りました。固定資産投資をけん引するインフラ投資は伸び悩みが鮮明なうえ、10月の不動産投資はマイナス9.3%と前月から悪化しました。

中国の10月の小売売上高は回復したものの、内容には注意が必要

10月の中国の主要経済指標はまちまちの内容で不動産投資をはじめとする固定資産投資は伸び悩んだ一方で、小売売上高や工業生産は市場予想を上回っています。ただし、内容を見ると景気回復の勢いに力強さはなかったとみられます。

例えば小売売上高は7.6%上昇しましたが、昨年の同時期、ゼロコロナ政策の解除の遅れで消費が落ち込んでいたため23年の小売売上高が押し上げられたという要因に注意が必要です。また、足元の消費動向を、11月11日まで2~3週間程度行われていた「独身の日」の取引で確認すると、期間中の取引総額は1兆1386億元(約23兆7000億円)で、伸び率は前年比で2%増にとどまり、前年の14%増から大幅に鈍化しています。また、小売店のコメントをみると、値引きをしてもなかなか消費が盛り上がらなかった様子が伝えられています。消費の中心として期待される若者の失業率は、中国国家統計局が7月分から公表を停止していますが、23年6月時点で21.3%と高水準でした。恐らく失業率は高水準のままであることが想定され、消費の下押し要因とみています。

別の調査でも中国の消費者マインドの改善に時間がかかっていることがうかがえます。中国人民銀行(中央銀行)が23年4月~6月に行った調査で、「消費を増やす」との回答が24.5%であったのに対し、「貯蓄を増やす」との回答は58%と節約志向の方が強いようです。

中国の不動産問題と、中国包囲網は消費者マインドの改善に重荷か

中国の景気回復に力強さが見られない、もしくは節約志向に示されるように、消費者マインドの改善が遅れている主な理由として不動産が筆頭に挙げられるうえ、その他の問題として、中国を取り巻く経済環境の悪さがあげられます。

まず、中国の不動産問題は連日報道などで取り上げられている通りです。11月16日に発表された10月の70都市新築住宅販売価格は前月比マイナス0.38%と前月から小幅ながらマイナス幅が拡大しました(図表2参照)。

なお、中国の住宅市場を図表2で振り返ると、中国の住宅販売価格は15年から16年以前は、3年周期程度で住宅価格がプラスとマイナスを繰り返す「健全」な市場でした。しかし成長の軸足を住宅投資にしたことなどを受け16年頃から昨年までは住宅価格はプラス圏での推移が長期的に続きました。これを住宅バブルと呼ぶのであれば、現局面は住宅バブルへの対応が求められています。しかし、中国当局のこれまでの対応は抜本的というよりは、個別対応の繰り返しという印象です。消費者の信頼回復には距離があるように思われます。

中国の不動産問題のように報道で取り上げられることは少なく、見逃されやすい問題として、中国への海外からの直接投資(FDI)が急速に細っています。23年7-9月期の直接投資額はマイナス118億ドル(約1兆7700億円)と、統計がさかのぼれる1998年以降で初めてマイナスとなりました(図表3参照)。海外企業が中国での工場新設を控えていることや、中国での事業縮小が背景とみられます。FDIが細り始めたのは昨年からで、ゼロコロナ政策で導入された企業活動への制約等が中国事業縮小へのきっかけになったものと思われます。

足元では、米中対立に解決の糸口が見られない中、半導体を巡る対立や日本企業も被害を受けている中国の過剰ともいえるスパイ摘発強化への懸念が中国への投資を抑えた要因になったと思われます。米国は23年8月に半導体や人工知能(AI)の分野で対中投資の規制強化を発表しています。最先端分野への投資が米国自体や友好国に回帰していることは最近のデータなどにも示されています。

こうした中、15日にバイデン米大統領と習近平・中国国家主席が約1年ぶりに米中首脳会談を行いました。報道から会談の内容を推察すると、軍事的な衝突回避に進展があった模様です。米中の偶発的衝突が回避されるならばそれだけでも、経済的にはプラスと思われます。しかしおそらく、両国にとってメリットとなる通商問題の対立解消には踏み込めなかったと理解しています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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