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ユーロ圏、インフレ率低下の福音か
梅澤 利文
2023/12/06

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概要

11月のユーロ圏のインフレ率が急低下したことを受け、ECBメンバーの重鎮の一人で、タカ派で知られるシュナーベル専務理事が追加利上げの必要性に消極的な発言をしました。ユーロ圏国債市場はこの発言を受け利回りが急低下しました。ユーロ圏のインフレ率はECBの物価目標に近づきつつある一方で、景気は悪化傾向であることから、金融政策は新たな段階に向かっているようです。




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シュナーベル専務理事の発言を受けユーロ圏国債利回りは急低下

2023年12月5日のユーロ圏国債市場で、ドイツをはじめイタリアなど幅広い国の国債利回りが大幅に低下しました。きっかけとなったのは、欧州中央銀行(ECB)のシュナーベル専務理事が5日に公開された大手メディアとのインタビューで「追加利上げの可能性は低くなった」との認識を示したことによります。

シュナーベル氏は追加利上げの必要性が低下した背景として、11月の消費者物価指数(CPI)が想定以上に低下したことを指摘しています(図表1参照)。シュナーベル氏は利下げについて「データ次第」と指摘する一方で、「6ヵ月後に起きることを発言するのは慎重であるべきだ」として、早期利下げの可能性に含みを持たせました。

事実が異なれば、見方も変わる。あなただってやはりそうするだろう

シュナーベル専務理事はECBメンバーの中でも発言の影響力が比較的大きく、またタカ派(金融引き締めを選好)としても知られています。11月21日の講演でユーロ圏のインフレは再び加速するとの見通しを述べ、インフレ率を2.9%(ユーロ圏10月のCPI)から2%(ECBの物価目標水準)に引き下げるためには2年必要だろうと指摘しています。

シュナーベル氏の12月5日のインタビューは経済学者ジョン・メイナード・ケインズのフレーズである「事実が異なれば、見方も変わる。あなただってやはりそうするだろう」の引用から始まっています。これまでの主張との違いに「ばつ」の悪さもあるのでしょう。

もっとも、11月のユーロ圏のインフレ率は市場予想を大幅に下回る急低下となるなど経済環境は急速に変わっています。このような変化に柔軟に対応する「したたかさ」の方が、意地を張り続けるよりもはるかに重要と筆者は考えています。

11月のユーロ圏CPIは前年同月比2.4%上昇と、市場予想の2.7%上昇、前月の2.9%上昇を大幅に下回りました。変動の大きい項目を除いたコアCPIも3.6%上昇と、こちらも市場予想、前月を下回りました。CPIを押し下げた最大の要因はエネルギー価格の下落ですが、食品価格、財価格も減速です。サービス価格は前年同月比4.0%上昇とコアCPIを高水準にとどめる要因となっていますが、10月の4.6%上昇から減速しています。11月のCPIは幅広いセクターで減速がみられました。

また、ユーロ圏の期待インフレ率も急速に低下しています。ユーロ圏の期待インフレ率は10月ごろまで高水準で高止まりしていました。シュナーベル氏が11月までインフレ再加速のリスクを懸念していた一つの理由はユーロ圏の期待インフレ率の高さでした。最近の期待インフレ率の低下は安心材料になったと思われます。

もっとも、シュナーベル氏はインフレに対し依然警戒感も持ち合わせています。おそらくその背景はサービス価格の動向に不確実性があるからだと思われます。サービス価格の大半を左右するユーロ圏の賃金動向を足元のデータで確認すると、7-9月期は前期を上回りました(図表2参照)。賃金動向がインフレ率の低下を妨げる可能性はゼロではないようです。ただし、ユーロ圏の賃金データは、ブレも大きいことから、ユーロ圏の他の労働市場データとの整合性などを慎重に検討するべきと筆者は考えています。

ユーロ圏の景気動向は利下げを求める指標が増えつつある

ユーロ圏の政策金利据え置きを支持する要因は足元のインフレ率低下以外に、景気動向、例えば貸出動向があげられます。ECBが四半期毎に公表する貸出調査で企業向け貸出しを、貸出需要の増加と減少の差により実績(23年7-9月期まで)と見通し(10-12月期まで)でみると(図表3参照)、22年中ごろから減少傾向です。

特に実績を見るとマイナス40%程度で推移していますが、この水準は世界金融危機(リーマンショック)や2012年ごろの欧州債務危機並みの水準です。シュナーベル氏は貸出しの抑制はインフレを押し下げる点では望ましいととらえていますが、引き締め過ぎを意識する段階に近づいていることも確かなようです。

ECBがユーロ圏の政策金利を引き上げ始めたのは22年7月で、米国に4か月ほど遅れていました。米国、ユーロ圏ともに政策金利の水準はピークで、利下げ開始時期が市場の関心となる中、先物市場で織り込まれている利下げ開始時期をみると、ユーロ圏は24年3月ごろが見込まれ、米連邦準備制度理事会(FRB)よりも早く利下げ開始となる可能性も考えられます。米国とユーロ圏の物価や景況感の違いが最大の要因ですが、米国に比べ銀行による間接金融主体のユーロ圏は利上げが景気を押し下げやすいという面があるのかもしれません。仮にユーロ圏の利下げ開始時期が米国より早かった場合、今後の両地域の景気動向に微妙な違いを生み出すかもしれません。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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