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1月FOMC、バランスを取りつつ利下げを醸し出す
梅澤 利文
2024/02/01

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概要

足元では大幅に低下したものの、市場は3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)における利下げ開始を相当織り込んでいた時期もありました。この前のめりの利下げ期待を前にした1月のFOMCでは、3月利下げ開始を明確に否定しつつ、将来的な金融緩和へのシフトを色濃くにじませました。3月利下げ開始を予想していた人にはタカ派的ながら、そうでない人にとってはハト派的なFOMCであったと思われます。




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バランスをとった声明文と記者会見だが利下げの地ならしが見え隠れ

米連邦準備制度理事会(FRB)は24年1月30-31日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、市場予想通り政策金利の据え置きなどを決定しました。声明文やFOMC後のパウエル議長の会見では金融引き締め、緩和、双方のメッセージが示されました(図表1参照)。

最近の米GDP(国内総生産)成長率は10-12月期が前期比年率3.3%増と堅調な数字であったこともあり、声明文における経済成長の評価を上方修正しました。一方で、「追加的な引き締めの程度を判断する場合」を「政策金利へのなんらかの調整を考慮する場合」へと変更したのはハト派(金融緩和を選好)的と見られます。

3月の利下げ開始は時期尚早だが、利上げ路線をもはや維持していない

31日の米国債市場では利回りが大幅に低下しました。雇用コスト指数(ECI)の低下など、FOMC前に発表された経済指標が最初に利回りを押し下げました(図表2参照)。その後FOMCを受け、最終的に国債利回りが低下したことから、市場はFOMCの発表内容を概ねハト派的と見たようです。

今回のFOMCの全体のメッセージで最も重要なのは、早すぎる(3月FOMC)利下げ開始は否定するものの、金融政策の次の一手は緩和(利下げ)であることを示唆した点であるとみています。この点を、発表内容から振り返ります。

まず声明文で注目したのは、追加利上げの可能性を示唆していた文言である「追加的な引き締めの程度を判断する場合」を削除し、利下げを選択肢とする文言の「政策金利へのなんらかの調整を考慮する場合」へ変更したことです。利上げバイアスを取り除きながら、バランスを重視する文言に変更したことで、市場の前のめりな利下げ観測が再燃することを抑えつつ、慎重に金融政策の方針を変えたいという意図があったものと見ています。

声明文の「2%の物価目標達成に向け、より確かな自信を得るまで利下げは適切ではない」はこれだけ取り出せばタカ派(金融引き締めを選好)的です。ただし、パウエル議長が会見で「3月FOMCまでに確信できるレベルに達する可能性は低い」と述べたことを考え合わせると、市場の3月利下げ期待を否定する意向が強かったのかもしれません。むしろ、2%の物価目標に向けた自信が得られれば利下げが適切とも解釈でき、徐々に利下げを意識させているのかもしれません。 2%の物価目標に向けた自信は、経済指標により作り出されるとみられることから、「データ次第」の方針を維持していることもうかがわせます。

パウエル議長は会見で、(おそらく利下げを念頭に)「政策を元に戻す」とより明確に表現しています。また、会見の中でハト派的だった点として「高い成長率を問題視していない」ことを示唆したことが挙げられます。堅調な経済成長は供給回復が寄与している面もあり、雇用とインフレの目標達成に抵触しない限り懸念しないもと説明しています。

強い労働市場のままのインフレ鈍化に期待を寄せているようです。インフレ対応をめぐり、「失業率の急上昇がない限りインフレ低下はあり得ない」という考え方と、「失業率の小幅な上昇でインフレの落ち着きは可能」とする論争がFRB内部、もしくは金融界でも論争がありました。パウエル議長は後者の立場を支持した点で、景気の強さなどに対する警戒心を和らげる可能性が考えられます。

なお、パウエル議長は記者からの質問に答える形で、量的引き締め(QT)を巡っては、焦点は保有債券を縮小させるペースの緩和に移っていると認めました。ただし、「3月のFOMCで詳細な議論を始める計画」と述べたに過ぎません。QTについて、声明文では淡々と保有債券を縮小すると述べられているにとどまり、本格的な議論は先の印象です。もっとも、QT議論(保有債券縮小ペースの緩和)は金融緩和の効果があることから、FRBが3月利下げに消極的な今の段階では「議論はこれから」にとどめ、市場に勘繰られるのを回避した可能性もあります。パウエル議長は最近話題となっている翌日物リバースレポ(RRP)の残高減少について、残高ゼロまで待つ必要はないと答えるなど、動向を気にかけている様子です。QTについても、内部では意外と準備が進んでいるのかもしれません。

米景気減速やインフレ鈍化のペースが利下げ開始とペースを決めよう

経済指標については若干の上振れならばインフレの懸念材料とはならない考えであることは、今後の金融政策運営に多少なりとも影響を与えそうです。そのうえ、インフレ動向に波及する傾向がある賃金は、23年後半の堅調な米経済の中でも減速していた可能性があります。

FRBが重視する賃金データの1つである雇用コスト指数(ECI)は10-12月期に前期比0.9%上昇と前期を下回りました。コロナ禍前の水準に、距離はまだありますが、近づきつつあるようにも見られます。賃金など労働市場に関連する経済指標は堅調なものもある程度見られますが、全体としては減速傾向にある指標が多いように思われます。

今後も減速が続くようであれば、利下げ開始の可能性は高まると見られます。景気減速ペースと、インフレ率の低下を踏まえると、筆者は6月か7月に最初の利下げが開始される可能性が高いとみています。また、「時間」が必要な場合、最初の利下げ後、それに続く各FOMCで毎回利下げをすると決めつけることには注意が必要と見ています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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