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米3月雇用統計、雇用の強さと賃金の弱さの不思議
梅澤 利文
2024/04/08

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概要

米国の3月の雇用統計は非農業部門の就業者数が前月を大幅に上回るなど、概ね堅調な内容でした。一方で、平均時給(賃金)の伸びは相対的に緩やかでした。この不思議な組み合わせを説明する一つの背景は23年以降の大量の移民の流入と見られます。移民の流入だけで、強い雇用と、賃金鈍化をすべて説明できるわけではないとしても、今後の展開を考えるヒントとして役立つ面もありそうです。




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3月の米雇用統計で非農業部門就業者数は市場予想を大幅に上回った

米労働省が4月5日に発表した3月の雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月比30.3万人増と、市場予想の21.4万人増、2月の27万人増(改定値)を上回りました。3月は教育・医療や政府部門のほか、娯楽・接客部門での伸びが目立ちました(図表1参照)。失業率は3.8%と、市場予想通りで、2月の3.9%を下回りました。4%を下回るのは26ヵ月連続で、米労働市場での人手不足の定着、雇用の勢いの強さが維持されました。

3月の平均時給は前月比で0.3%上昇と、2月の0.2%上昇を上回りました。しかし、長期的な傾向を示す前年同月比は4.1%上昇と、2月の4.3%上昇を下回り、賃金上昇に鈍化が見られました。

3月の雇用統計は全般に堅調ながら平均時給(賃金)の伸びは鈍化

3月の米雇用統計が概ね堅調な内容であったことを受け米国債利回りは上昇しました。ただし平均時給(賃金)の伸びは前年同月比で緩やかながら鈍化が続く中、賃金インフレの懸念はやや後退しているように見られます。

まず、 3月の米雇用統計の堅調さは非農業部門の就業者数が前月比で市場予想を大幅上回ったことに示されています。就業者数の変化を部門別にみると、景気変動の影響を受けにくい教育・医療や政府部門が就業者数の伸びを押し上げる構図です。加えて消費関連の部門である娯楽・接客や、小売りの伸びも比較的堅調です。また、建設業は前月比3.9万人増と、過去1年の前月比の平均である1.9万人増のほぼ倍のペースでした。製造業のように景気変動の影響を受け伸びが鈍い部門もある一方で、消費関連などの採用が堅調である点は注目されます。

失業率は3月が3.8%と、2月の3.9%を下回り、労働市場が堅調であることが示されました。もっとも、小数点以下3桁まで見ると3月は3.829%で、2月の3.857%と見かけほどの差はない点に注意は必要です。

週平均労働時間は3月が34.4時間と、1月の低下(34.2時間)から回復し23年平均に一致、労働市場が「正常化」しつつあることを伺わせます。

一方で、3月の平均時給は長期的な傾向を示す前年同月比が4.1%上昇と前月を下回るなど鈍化傾向が続きました。なお、前月比では3月が0.3%上昇と2月を上回ってはいますが、1月の悪天候の影響で平均時給が上昇した1月の反動で低下した2月に比べての上昇にしては水準が低く、平均時給の鈍化傾向が止まったとは考えにくいと思われます。部門別では平均時給の伸びで最も注目されるサービス部門が前月比0.3%上昇と、前月を上回るも、年率でみれば、落ち着いた水準にとどまりました(図表2参照)。

賃上げの勢いが弱まっている例は、先日発表された求人件数データで転職者の賃金が鈍化傾向であることなどにも示されています。雇用者数は力強く伸びているが、賃金の伸びは弱まっているという足元で起きている不思議さですが、これ解くひとつのカギは大量の移民の流入と思われます。

移民流入が目先の雇用を増加させると共に、賃金上昇を抑制する可能性

米議会予算局(CBO)のデータを見ると、米国の「人口」(図表3、点線)は2050年代まで緩やかな増加が想定されます。しかし「移民流入率」(人口に対する、ある年の移民流入から流出を差し引いたネットの移民数の比率)は「人口増加率」(「人口」の年次変化率)に影響を及ぼしてきました。

トランプ政権時代の(違法)移民政策、コロナ禍の影響で米国への移民流入は減少しました。また、不幸なことながらコロナにより死者が増えたことは人口増加率の押し下げ要因ともなりました。

移民の増加に反対の声も根強く、政治的に複雑な問題ながら、バイデン政権は必要な分野に的を絞る形で、移民受け入れを増やす姿勢に転じました。CBOの移民流入数予想は23年を121万人としていましたが、24年の流入数を一気に330万人に引き上げました。法案整備も進み、23年5月にはエッセンシャルワーカーへの市民権の提供を拡大し、同年11月には看護目的の移民向けビザで未活用となっていたものを再活用する制度が導入されています。

米国も介護(ケアワーカー)の人手不足問題が深刻になりつつあります。また、ある調査では、コロナ後に明らかになったこととして、介護施設不足という長期的な問題がある一方で、感染などへの懸念から、施設ではなく、人手がかかる自宅での介護の需要が高いことが示されました。なお、図表1の教育・医療部門は介護関連で働く人が多く含まれ、需要の高さがうかがえます。

ケアワーカーは移民受け入れ先の一つの例です。ただし、CBOの予測のように当面移民受け入れが続くとすると、雇用拡大、賃金鈍化の組み合わせはそれほど不思議ではないのかもしれません。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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