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インド、総選挙とインド中銀の微妙な関係
梅澤 利文
2024/04/09

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概要

インドでは今年最大の政治イベントを間近に控えています。世論調査ではモディ政権率いるBJP主導の与党連合が圧勝の勢いです。そうした中、選挙戦でインド経済の問題点はインフレであることも明らかとなりました。インド中銀は引き締め的な政策を維持してきたことから、インフレ率は今後、低下することも見込まれますが、利下げに転じるには、もうしばらく辛抱する必要がありそうです。




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インド準備銀行、市場予想通り政策金利を据え置き

インド準備銀行(中央銀行)は4月5日に金融政策決定会合の結果を発表、市場予想通り政策金利(レポ金利)を6.5%で据え置きました(図表1参照)。ダス総裁は声明文で食品価格の不確実性が引き続き課題と指摘するなどタカ派(金融引き締めを選好)姿勢を維持しましたが、景気への配慮も示すなど、一部にハト派(金融緩和を選好)の顔も見え隠れしました。

モディ政権の支持率を押し上げた主な要因は堅調な経済

インドでは今年最大の政治イベントである総選挙が間もなく始まります。インド選挙委員会(ECI)は3月16日、24年の下院(改選議席545、ただし大統領が2議席を任命)総選挙の日程を発表しました。投票は4月19日から6月1日にかけて計7回に分けて段階的に実施され、開票は6月4日が予定されています。

選挙戦で浮かび上がってきたインド国民の不満の1つがインフレです。インド中銀はインフレ対応として、もうしばらく金融引き締め姿勢を維持する必要がありそうです。

インド総選挙の足元の状況を簡単に整理します。

選挙戦は3つのグループの争いといえ、1つ目はモディ首相率いるインド人民党(BJP)を軸とする国民民主連合(NDA)、2つ目は最大の野党連合「インド国家開発包括同盟(INDIA)」、3つ目はその他の政党のグループです。

総選挙では543議席が争われ、過半数は272議席です。現地の報道ではモディ政権主導で構成されるNDA圧勝が予想されており、過半数を上回るかどうかよりも、NDAが400議席以上を確保するかどうかが興味の対象となっているという状況です。モディ政権下の経済運営やコロナ禍への対応、国民の約8割を占めるヒンズー教徒からの支持固めとしてヒンズー教寺院の建立を推し進めてたことが支持率を押し上げた要因とみられます。

2月末に発表されたインドのGDP(国内総生産)成長率を見ると、23年10-12月期は前年同期比で8.4%増と、市場予想の6.6%増、前期の8.1%増を上回りました(図表2参照)。コロナ禍前の長期的な平均成長率を上回る水準です。

インドのGDP成長率を主な需要項目別に見ると、成長を主導したのは総固定資本形成(前年同期比10.6%増)でした。設備投資などが堅調であったことを伺わせます。純輸出はマイナスで外需への懸念は残されています。

業種別にみると、製造業は前年同期比11.6%増と堅調でした。IT投資は右肩上がりで伸びていることなどが背景とみられます。小売りを含んだ通信、運輸業は6.7%上昇と前期を上回りました。個人消費が堅調であったためと見られますが、秋のイベントで消費が盛り上がった時期である点は割り引く必要があるかもしれません。

このようにインドの高い成長率がモディ政権の支持率を押し上げたと見られる半面、成長の中身は金利感応度が高い投資に偏っています。また個人消費の底上げにも課題が残されているようです。

当面インフレ対応は必要だが、夏以降に利下げに転じる可能性も

足元、インドの世論調査でモディ政権(NDA)への不満を見ると、「インフレ」が最大の懸念として指摘されているものもあります。同じ調査で経済成長や失業率の高さへの不満もあり、判断に迷う面もありますが、インフレへの懸念は幅広く共有されているようです。インドの消費者物価指数(CPI)を見ると、2月は前年同月比で5.09%と、食品価格の急騰で上昇した昨年のピークは下回っています(図表3参照)。また、インド中銀の物価目標の上限である6%は下回っている点で、現状水準は一応許容範囲です。世論調査ではどの時点のインフレ率に不満を述べているのかまでは分かりませんが、いずれにせよ物価について安心するのはまだ早いようです。まして、今回の会合の声明でインド中銀が指摘したように、(国民生活に直結する)食品価格にインフレの芽が残る中では、タカ派姿勢をすぐに崩すわけにはいかないと思われます。

しかしながら、インド中銀は夏以降、利下げに転じる可能性もあると筆者は見ています。

インドの政策金利は引き締め領域にあると考えられ現水準で据え置きを続けることは経済成長を必要以上に押し下げるリスクもあり、見直しの時期はそれほど先のことではないと思われます。また、米国の利下げも夏以降には開始が想定されることや、インフレ率の将来的な低下予想も利下げの支援材料です。インド中銀は今回の会合で全般にタカ派姿勢を示し、今年度のインフレ見通しは4.5%で据え置いたものの、25年1-3月期のインフレ見通しを引き下げ、来年度は一段の低下を見込むなど、徐々に利下げの準備を進めているようにも思われます。インド中銀が指摘するように、天候の影響を受ける食品価格は不確実性が高いですが、インドの引き締め姿勢は確かに終盤に近づいているように思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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