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米3月CPIを受け、利下げ開始見通し後ずれ
梅澤 利文
2024/04/11

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概要

3月の米CPIは市場予想を上回りました。FRBのパウエル議長は物価上昇は一時的かもしれないと述べましたが、3月のCPIはサービス価格などで物価が下がりにくいことが示され、一時的とは言えない可能性が示されました。エネルギー価格も地政学リスクの高まりを受け上昇の兆しがあり、FRBの利下げ開始にはインフレ鈍化の確認が必要で、6月の開始は厳しく、7月または9月に後ずれすると予想します。




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米3月CPIはサービス価格主導で上昇市場予想を上回った

米労働省が4月10日に発表した3月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比で3.5%上昇と、市場予想の3.4%上昇、前月の3.2%上昇を上回りました(図表1参照)。変動が大きいエネルギーと食品を除いたコアCPIは前年同月比で3.8%上昇と、前月から横ばいながら、市場予想の3.7%上昇を上回りました。足元の変化を示す前月比の伸びは0.4%上昇し、市場予想の0.3%を上回りました。

内訳をみるとモノの価格(財価格)は落ち着いている一方で、指数構成割合で全体の6割強を占めるサービス価格が3月は前年同月比で5.3%上昇と前月を上回りました。エネルギー価格は2.1%上昇と、前月の1.9%下落からプラスに転じました。

住居費は思うように下がらず、自動車保険は高騰

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長はドットチャートで年内3回の利下げ見通しを示唆した3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で「インフレ率は時に『でこぼこ』な道をたどりながらも徐々に2%に向かって低下していくものだ」と述べました。1月、2月に発表されたインフレ指標や労働市場のデータが堅調(物価は上昇)であっても一時的な上昇である可能性を示唆したものと市場は受けとめたと見られます。

しかし、3月の米CPIは足元の物価の上昇を単に『でこぼこ』で片づけてしまえるのか疑問を残す内容でした。CPIを押し上げている要因を項目別に見ると一時的とは言い切れない例も散見されます。

例えばサービス価格の内訳(図表2参照)について6つの項目に注目すると、3月のサービス価格の上昇率(5.3%)を上回った「住居」と「輸送」などの伸びが高い状態が続いています。

「住居」は賃料と帰属家賃(持ち家を賃貸した場合の家賃を想定して算出)が構成割合の大半を占めます。3月に賃料、帰属家賃は共に前月比で0.4%上昇しました。前年同月比では賃料が5.7%上昇し、帰属家賃は5.9%上昇しました。前年同月比で見て住居費は緩やかにしか鈍化していません。足元の変化を見る前月比から見ても、一段の鈍化には時間が必要と思われます。

次に、「輸送」の中身を見ると、主な構成品目は自動車などのリースやレンタル、自動車保険、公共輸送などで構成されています。このうち、最大の押し上げ要因は自動車保険です。前年同月比で22.2%上昇しています。自動車保険がCPIに占める構成割合は約2.9%で、単独の品目としては決して小さい項目でないことから、CPIを大きく押し上げることとなりました。同じ「輸送」項目に含まれる自動車修理も前年同月比で約8.2%上昇しました。なぜ、自動車保険の価格高騰が続いているのかについては報道などで様々な要因が指摘されていますが、主なものとしては、コロナ禍で自動車の利用が増えたこと、最近の自動車の修理コストが高いこと、自然災害の増加などが挙げられます。今のペースで自動車保険の価格が上昇を続けることは考えにくいですが、落ち着くまでにはある程度時間がかかりそうです。

図表2でサービスの中に「保健・医療」があり、前年同月比で3月は2.1%上昇と、サービス価格の中では低水準に見えます。しかしこの理由は医療サービス価格が低く抑えられたことが原因と見られます。一方で、同じ「保健・医療」に含まれる在宅介護サービスは14.2%上昇と高い伸びとなっています。コロナ禍の後、在宅でのサービス希望が増えていることが介護サービスの価格を押し上げたと見られます。物価上昇の芽は意外と多いということを物語る1つの例と思われます。

FRBのパウエル議長は物価動向を判断するうえで住居とエネルギーを除いたサービス価格(スーパーコア)を重視すると述べています(図表3参照)。昨年後半までスーパーコアは鈍化していましたが、足元の動きは『でこぼこ」ですませるには上昇が長く続いているようにも見えます。鈍化の確認には時間が必要と思われます。

エネルギー価格の動向も不確実性が高く、利下げ開始予想は後ずれ

変動が大きい項目であることから重視されない傾向があるエネルギー価格の雲行きも怪しくなってきました。中東のイスラエルとパレスチナのイスラム組織ハマスの戦闘は停戦の道筋が見えないままです。地政学リスクの高まりを受け、原油価格が上昇傾向に転じ、米国ではガソリン価格などが上昇傾向となっています。過去1年ほどマイナス続きだったCPIのエネルギー価格は3月に前年同月比2.1%上昇とプラスに転じています。原油価格の動向などにも注意が必要です。

FRBが利下げを開始するためには、インフレ鈍化を確認する必要性がこれまで以上に高まっています。6月の利下げ開始は厳しい状況で、7月もしくは9月の利下げ開始に筆者は予想を改めました。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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