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インドネシア中銀、サプライズ利上げの理由と今後
梅澤 利文
2024/04/26

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概要

インドネシア中央銀行は、ルピア安とインフレ抑制のために前倒し的な措置として、市場予想の据え置きに反し、政策金利を0.25%引き上げました。過去2年間の利上げ局面を振り返ると、インドネシア中銀はインフレ動向やルピア安抑制を重視してきました。今回は主に米国の金融政策がルピア安要因に大きく影響していると見られ、インドネシアの今後の金融政策を左右すると見ています。




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インドネシア中銀、市場予想の据え置きに反して政策金利を引き上げ

インドネシア中央銀行は4月24日、市場予想に反して政策金利(7日物リバースレポ金利)を0.25%引き上げ、6.25%とすることを決定しました(図表1参照)。利上げは6カ月ぶりです。インドネシア中銀のペリー総裁は利上げに踏み切った理由を会見で「ルピア相場を安定させインフレ率を目標値内に収めるための前倒し的な措置」と説明しています。

ルピアは過去1年ほど対ドルレートが下落基調となっていましたが、足元でルピア安が急速に進行する展開となっていました。市場予想に反した利上げを受け、ルピアは一時的に上昇しましたが、ルピア高の持続性には不確実な面もあるようです。

インドネシア中銀の金融政策はインフレとルピア安抑制を重視

図表1を参照しながら、インドネシア中銀の過去2年間の利上げ局面を振り返ります。

最初の利上げは①の22年8月~23年1月までの利上げ局面です。この時期はインドネシアの消費者物価指数(CPI)がインドネシア中銀の物価目標を上回ったことや(図表2参照)、ルピア安抑制が主な利上げの背景です。

②の利上げは23年10月に実施されました。当時の市場予想は据え置きでしたので、サプライズ利上げでした。据え置きを見込んだ理由はインフレ率がインドネシア中銀の目標範囲に収まっていたからです。ただし為替市場ではルピア安が進行していたことから、ルピア安抑制が目的であったと見られます。①のように、インフレ率は上昇し、通貨安が進行する局面では連続的な利上げ対応が迫られました。一方、インフレは落ち着いていたものの、ルピア安が利上げ直後に収まった②では、利上げ後しばらくしてルピア高に転じたことから、利上げは一度で、その後据え置きとしました。

③の今回の利上げは②のように単発の利上げにとどまるのか、それとも①ほどの頻度ではないにしても追加利上げを求められるのか、市場でもコンセンサスは見られない状況と筆者は認識しています。理由は今回、サプライズ(一部は利上げを見込んではいたが)となる利上げにもかかわらず、ルピア安に落ち着きが見られないからです。

米金融政策はインドネシア中銀の追加利上げの有無に影響しそうだ

今回の利上げでは追加利上げがあるのかを検討するうえで注目点を振り返ります。

まずはインフレ動向です。インドネシアの3月のCPIは前年同月比で3.1%上昇と、物価目標の上限を下回っていますが、昨年後半から上昇傾向となっています。声明文では特に食品価格の上昇に懸念を示しています。食品価格は3月が前年同月比10.3%上昇と、2月の8.5%上昇を上回りました。エルニーニョ現象の影響などが指摘されています。

ルピアの動向は追加利上げの有無を判断するうえで重要と見ています。3月半ばごろから続く足元のルピア安はインフレを悪化させる恐れがあるからです。

ルピア安の背景として、国内要因には財政支出拡大への不安が挙げられます。大統領選挙に勝利し、10月に大統領就任が予定されているプラボウォ氏は成長戦略や食糧支援などを公約としているため、財政支出の拡大が懸念されます。

国外要因については声明文で米国の金融政策と中東の地政学リスクが指摘しています。インドネシア中銀は外部環境(国外要因)については強力に対応する必要があると述べています。

中東情勢が悪化した場合、エネルギー価格上昇の影響が懸念されますが、今のところ深刻な対立を回避する機運もみられます。もっとも、地政学リスクは先が読みにくいイベントだけに、インドネシア中銀は警戒スタンスを続けるものと見られます。

おそらく、インドネシア中銀にとって、最も頭が痛いのは米国の利下げ開始時期の見通しが後退していることと思われます。米国の3月CPIなどを背景に、利下げ開始時期見通しは年後半に後ずれしています。インドネシア中銀は最近まで、米国が利下げを開始したら、その後インドネシアも利下げを開始する意向を示唆していました。なお、インドネシア中銀の今回の発表内容から、中銀は米国の利下げを年内1回と見込んでいるようです。

インドネシア中銀は以前は利下げを示唆していたことからうかがえるように、追加利上げに積極的とは思われません。しかし追加利上げを回避するには、外部環境の改善、とりわけ米国の利下げ開始への道筋が明確になることが必要と思われます。

インドネシア中銀は会見で、(おそらく米国のさらなる利下げ開始時期の後ずれなどを念頭に)外部環境が悪化した場合、追加利上げも辞さない可能性を示唆しているだけに、今後の金融政策について予断を持って判断すべきではないと見ています。

インドネシア中銀の追加利上げの有無に、米国の金融政策が影響を与えそうという点は間違いないようです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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