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パウエル議長:次の一手が利上げの可能性は低い
梅澤 利文
2024/05/02

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概要

FRBは4月30日~5月1日に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)で市場予想通り政策金利を据え置きました。声明文ではインフレに対する警戒感が示されたものの、パウエル議長は会見で追加利上げの可能性は低いことを示唆しました。足元の経済指標の中には景気減速を示す内容も見られる一方で、インフレ懸念も根強く示されており、当面FRBはデータを見守る姿勢となりそうです。




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FOMCは市場予想通り政策金利を据え置き、追加利上げには否定的

米連邦準備制度理事会(FRB)は4月30日~5月1日に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)で市場予想通り政策金利を据え置きました。

声明文で、「この数カ月間は2%の物価目標に向けた進展が見られなかった」と明記し、物価動向に対する懸念が強いこと示されました。また、声明文でFRBが保有する資産の圧縮(量的引き締め、QT)ペースを鈍化させることも発表されました(図表1参照)。

FOMC後の記者会見でパウエル議長は、利下げの確信を得るまでには想定よりも時間がかかると指摘しながらも、「次の一手が利上げである可能性は低い」とも述べました。

今回のFOMCのトーンは比較的ハト派だが物価への警戒心は高いまま

今回のFOMCは、全体を通せばハト派(金融緩和を選好)寄りであったと見ています。市場の一部は今回のFOMCで追加利上げの布石が打たれるなどタカ派(金融引き締めを選好)化を懸念していました。しかし、パウエル議長が追加利上げに否定的であったことで懸念は和らぎました。

もっとも、会見でパウエル議長は年明け以降の経済指標が2%の物価目標に向けたさらなる進展を示していないと、声明文の内容を繰り返し、その上で、利下げに十分な確信を得るには「予想よりも時間がかかる」と2週間前のイベントでの発言を繰り返しました。追加利上げには否定的とはいえ、利下げ開始時期の見通しは前回(3月)FOMCの時点より後ずれしている可能性を示唆しています。

ただし市場は利下げ開始の遅れを既に織り込んでいたと見られ、また追加利上げ観測は一部にとどまっていたことから、FOMC後の米国債市場でも利回り低下幅は比較的小幅にとどまりました。

なお、 FRBが保有する資産の圧縮(QT)ペースの減速は3月FOMCの議事要旨に概ね沿った内容でした。具体的には米国債の償還を月当たり最大(上限)600億ドルから同250億ドルに減らす一方で、住宅ローン担保証券(MBS)の償還については月当たり最大350億ドルのままにするとしています。今後は仕組みの上ではMBSの削減が国債に比べ進むことが意図されています。おそらくこの背景にはMBSは金利水準が低い局面では早期償還が想定される一方で、現在のように高金利局面では早期償還が進まず、結果としてMBS削減ペースが進まないというMBS商品の特性があるように思われます。このような背景もあり、足元のMBSの月当りの削減ペースは上限の350憶ドルを大幅に下回っています。今後の削減ペースも金利水準次第となりそうです。金融政策としてFRBの保有資産の増減を使う場合、MBSのこの商品特性には使いづらさがあったのかもしれません。

QTのペース減速を決めたのは金融緩和ではなく、バランスシートの縮小ペースの鈍化により短期金融市場の流動性を確保し、市場の混乱を未然に防ぐことが意図であったと筆者は見ています。

足元の経済指標の中には金利が景気抑制的であることを示唆するものも

声明文などからFRBがインフレに警戒姿勢を維持している一方で、追加利上げには否定的なパウエル議長の発言により今回のFOMCは比較的ハト派的と述べてきました。しかし肝心の追加利上げに否定的な理由はやや不明確です。FOMC後の記者会見でも何人かがこの点を問いただしました。パウエル議長によると現在の政策金利は十分引き締め的な水準で、インフレ率低下を確信するまで長期的に維持することが大切と説明しています。

幸い(?)、1日に発表された経済指標はこれまでの利上げが景気抑制的であった可能性を示唆するものも発表されました。3月の求人件数は848.8万人と、市場予想、前月を下回りました(図表2参照)。転職など労働市場の活況度を示す離職率も3月は2.1%と前月を下回り低下傾向です。パウエル議長も会見で、これらのデータに言及し、求人件数は依然水準は高いが低下傾向で、これまでの利上げの効果を示唆していると述べています。

しかし、利上げの景気抑制効果の一方で、インフレ懸念が残る指標も見られます。同日に発表された4月の米ISM製造業景況指数は49.2と景気拡大・縮小の分かれ目と見られる50を下回りました(図表3参照)。また先行きを示唆する新規受注も49.1と市場予想、前月を下回りました。一方で、価格動向を示す支払価格は60.9と前月の55.8を大幅に上回りました。財価格の上昇が押し上げ要因と見ています。製造業は利上げの影響を受けやすいだけに、景気抑制の兆候が見られる一方で、物価に関連する支払価格指数は上昇と、相反するデータが同居する格好です。

追加利上げの必要性は低いとはいえ、利下げ開始まで、ある程度の時間が必要と思われます。以前はメインシナリオであった6月の利下げ開始は問題外で、7月も厳しく、9月のFOMCでの利下げ開始が1つの可能性と見ています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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