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ジャクソンホール会議、ECBレーン理事のメッセージ
梅澤 利文
2024/08/28

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概要

欧州中央銀行(ECB)のレーン理事は、ジャクソンホール会議で、インフレ率は目標に回帰していないとして、物価抑制の必要性を強調しつつも、過度な引き締めが物価を押し下げすぎたり、副作用として景気を悪化させるリスクにも言及しました。ユーロ圏の足元の経済指標は、賃金上昇が減速し始めた一方で、景況回復は鈍いままです。ECBはデータ次第ながら、引き締め度合いの調整を進めるとみています。




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レーン理事は両論併記ながら引き締めすぎを警告

欧州中央銀行(ECB)のチーフエコノミストのレーン理事は8月24日、ジャクソンホール会議の討論会に参加し、「物価目標への回帰はまだ確実ではない」とし、金融政策は必要な期間にわたって、景気抑制的な領域にとどまるべきとの考えを示しました。一方で、過度に引き締め的な政策へのリスクにも言及し、あまりにも長い期間、過度に高い水準の金利を維持することに警戒感を示しました。

ECBが22日に発表した4-6月期のユーロ圏妥結賃金は、前年同期比3.55%上昇となり、1-3月期の4.74%を大幅に下回りました(図表1参照)。労使間の交渉に基づく賃上げの動きを捉える指標である妥結賃金にようやく落ち着きが見られました。

ECBの政策は需要を抑制し、期待インフレ率を押し下げてきたようだ

今年のジャクソンホール会議では「金融政策の有効性と波及経路の再評価」がテーマです。レーン理事は討論会で、コロナ禍や地政学リスクの悪化を背景に歴史的な上昇を演じたインフレ率に対し金融政策が有効であったかを論じました。

レーン理事は今回の討論会での報告を(インフレ対応の)暫定的な評価と位置付けています。ユーロ圏の消費者物価指数(CPI、欧州連合(EU)基準、HICP)の7月分は前年同月比で2.6%上昇と物価目標を上回っていることが、「目標への回帰はまだ確実ではない」という慎重姿勢の背景とみられます(図表2参照)。ECBが政策金利を引き締め領域に長期間維持したことや、銀行の貸出態度が引き締め的であったことなどにより、ユーロ圏の需要は抑制され、また期待インフレ率は安定化したと評価しています。

ユーロ圏の期待インフレ率は、経済の専門家の予測調査(SPF)、市場ベース(スワップなどの取引から期待インフレ率を算出)、家計の期待インフレ率調査(家計が予想する1年、3年後の物価予想)など様々な指標が参照されます。家計の期待インフレ率を図表3で確認すると、ロシアのウクライナへの軍事侵攻を背景としたエネルギー危機や、コロナ禍におけるサプライチェーンの混乱が期待インフレ率を押し上げたことがうかがえます。しかし利上げなどにより足元の期待インフレ率は落ち着きを見せています。ユーロ圏の賃金交渉では、期待インフレ率が賃金水準に影響することが一般的です。足元の期待インフレ率の落ち着きは、今後の賃金上昇を抑制する可能性があります。

なお、図表1に示した妥結賃金の伸びが一時高かったのは、過去の高インフレで失われた購買力の埋め合わせとして一時金が払われていたことが主な要因でした。4-6月期の妥結賃金が減速したのは、過去の購買力の損失の埋め合わせが終了に近いことを示唆しているものと思われます。

インフレ鈍化が続けば、引き締め度合い調整としての利下げが見込まれる

ECBは物価の安定を使命としていますが、金融引き締めが長期化した場合、インフレ率が物価目標を下回りすぎる懸念があることや、副作用として景気悪化が懸念されます。レーン理事もジャクソンホール会議でこの点に警戒感を示しました。

ユーロ圏のGDP(国内総生産)成長率は4-6月期が前年同期比0.6%増と低成長です。景況感指数をみるとユーロ圏の総合購買担当者景気指数(PMI)は景気の拡大・縮小の分岐の50近辺で推移しています。内訳は製造業PMIが低調な一方、サービス業PMIは底堅く推移しています。ドイツなど製造業を主力産業とする国は低調な一方、スペインなど観光に強みのある国の景気は回復基調です。ユーロ圏の景気動向をみるうえで、ドイツの経済指標に注目する傾向があります。そこだけ見ると、景気後退さえ懸念されますが、現局面では、ユーロ圏全体の景気動向をバランスよく見渡すことが必要と思われます。

ECBの金融政策を占います。インフレ鈍化は明確ですが、物価目標へは戻っていません。一方、景気に陰りがみられる中、ECBは6月に利下げを開始しました(7月は据え置き)。今後のシナリオは市場でも見方が分かれていますが、年内残り3回の各政策理事会(9月、10月、12月)において、理事会直前までのデータがインフレ鈍化を示したならば0.25%の利下げを行う可能性があるとみています。つまり理事会毎の、データ次第の政策運営ながら利下げバイアスを維持するとみています。一方で、インフレ懸念が残る中、前倒し的に過度な利下げは想定しにくいとみています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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