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7月の米求人件数:失業率上昇の可能性も匂わせる
梅澤 利文
2024/09/05

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概要

米労働省の7月の雇用動態調査によると、求人件数は市場予想を下回り、3年半ぶりの低水準となり、米労働市場の減速傾向が確認されました。解雇件数も緩やかながら増加しました。今回最も気になったのは失業者1人当たりの求人が1.1件と減少したことです。この数字の低下は、失業率が急上昇する兆しとも考えられるだけに、今後の動向に注意が必要です。




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7月の米求人件数は市場予想、前月を下回った

米労働省が9月4日に発表した7月の雇用動態調査(JOLTS)によると、非農業部門の求人件数(季節調整済み、速報値)は767.3万件と、市場予想の810万件、前月の791万件(818.4万件から下方修正)を下回りました(図表1参照)。およそ3年半ぶりの低水準です。

7月の解雇件数(レイオフ)は176.2万件と23年3月以来の高水準で、緩やかながら人員整理が進んでいることがうかがえます。米金融当局が注目する失業者1人当たりの求人件数は1.1件に減少しました。2022年のピーク時に、同件数は2件でした。自発的離職者の割合である離職率は2.1%に小幅ながら上昇しました。

求人件数は幅広い部門で減少傾向がみられる

7月の求人件数の減少は、失業率の上昇や、非農業部門就業者数の伸び鈍化など、他の米労働市場のデータと整合的です。米労働市場は以前の過熱感は影を潜め、足元では、悪化を懸念すべき水準にあるように思われます。

求人件数を部門別にみると、求人件数が増加したのは会計や法務サービス、システム設計などを含む「専門職」、政府部門の「連邦政府」など比較的限られた部門です(図表2参照)。

反対に減少したのは診療所や病院、在宅でのチャイルドケアなどを含む「ヘルスケア」や、「運輸・倉庫等」、地方政府(除く教育)などが挙げられます。同じ政府部門でも、7月は地方政府の求人が前月に比べ減少しました。なお、「ヘルスケア」部門は、雇用統計における非農業部門就業者数でも、景気動向にかかわらず採用を伸ばしてきた部門です。高齢者に対する介護や、コロナ禍を受け急増した在宅ケア需要などが背景とみられます。急増した移民の受け入れ先を調査したペーパーなどを見ると、これらの分野にも一定の労働者(移民)が職を得た模様です。「ヘルスケア」部門の需要は根強いと思われますが、求人件数からはピークアウト感の可能性も想定されます。

「娯楽・宿泊」や、図表にはありませんが「情報産業」、「金融」、「小売」などは前月とほぼ同水準、もしくは小幅な減少にとどまっています。なお、「娯楽・宿泊」の7月の求人は約94万件でしたが、昨年7月の求人件数は120万件を超えており、求人の勢いは傾向的に弱まっています。

7月の雇用動態調査では、部門別でみてきた求人件数の減少に加え、解雇件数(レイオフを含む非自発的な解雇)は図表1にあるように、7月が約176.2万件でした。民間部門だけでは167.5万件です。これまで米国企業は人手不足を経験したからか、解雇を控える傾向があり、解雇件数はおおむね横ばいでした。しかし、足元では、緩やかながら解雇件数が増えつつあります。

米連邦準備制度理事会(FRB)が4日に発表した米地区連銀経済報告(ベージュブック)によると集計期間中のレイオフはまれだったと指摘する一方で、一部の企業は勤務時間の削減や、自然減を通じた従業員数の削減をしたという記述もあります。積極的な解雇という状況ではないようですが、今後の解雇件数の動向には注意が必要です。

失業者1人当たりの求人件数は低下傾向で失業率上昇も懸念される

なお、7月の雇用動態調査では、図表1にある離職率は2.1%と前月を上回りました。自発的離職者の割合の増加は、新しい職を見つける機会が多いことが通常示唆され、労働市場の改善を示唆します。しかし、離職率は単月での上げ下げもあること、過去の水準と比べ低いことから、転職市場が再び活況となったとみるのは時期尚早と思われます。

このような中、気になるのは、失業者1人当たりに対する求人件数の割合(以後「割合」)が7月は1.1と、前月の1.2を下回り、節目の1に近づいたことです(図表3参照)。「割合」が1ならば求人と失業者数が同数というイメージです。「割合」が1を下回ると求人よりも失業者が多いことから、失業率が増えやすいと考えられます。FRBが「割合」に注目するのは失業率上昇の変曲点の目安としているからであると思われます。

ただし、現実には「割合」が1であるかどうかが必ずしも変曲点を示唆するわけではありません。求人と失業者のミスマッチが影響するからです。求人側の希望と失業者のスキルが必ずしも一致しないことで、求人はあっても失業率は上昇するということが起こりえます。FRBはミスマッチなどを考慮して求人件数(正確には欠員率)と失業率の関係を分析していますが、失業率が急上昇する変曲点の特定を求人件数に求めるのは難しい作業と思われます。

そうした中、7月の雇用統計では失業率が4.3%と、6月の4.1%から急上昇しました。これが失業率の持続的悪化の始まりなのか、それとも悪天候などによる単月の上振れなのかは判然としません。そうした中、週末の雇用統計を市場は緊張感をもって注目しています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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