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5月のFOMC、利下げを急がない姿勢を示唆
梅澤 利文
2025/05/08

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概要

FRBは5月のFOMCで市場予想通り政策金利を4.25%~4.5%で据え置いた。市場はパウエル議長の発言などから、利下げ開始時期の見通しを後ずれさせた。FRBのパウエル議長は会見で、物価と失業率の上昇が共に懸念される中で、ハードデータを重視して、当面は様子見姿勢となる可能性を示唆した。ただし、景気悪化の兆しも一部にみられることから、筆者は年後半の追加利下げを見込んでいる。




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5月のFOMCは市場予想通りの据え置きで波乱は見られなかった

米連邦準備制度理事会(FRB)は5月6日~7日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催、市場予想通り、主要政策金利のフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を4.25%~4.5%で据え置くことを決定した(図表1参照)。今回の政策決定は全会一致だった。

今回のFOMCの声明文では、変更点は少なかったものの、次の2点に変更が見られた。①景況判断において、「純輸出の振れが指標に影響している」が加えられたこと、②「経済見通しの不確実性が『一段と』上昇した」と、不確実性が強調された。ただし、FRBのパウエル議長は会見で、米国経済について足元では安定しているとも指摘した。

声明文やパウエル議長の会見では不確実性が強調された

5月FOMCの発表内容を受け米国債市場では、短期的な変動を無視すれば、政策金利の動向を反映しやすい2年国債利回りは概ね横ばい、10年国債利回りは小幅ながら低下した。パウエル議長の発言などから当面様子見となる可能性が示唆されたことを反映したようで、短期先物市場などでは6月FOMCにおける利下げ見通しが低下した。

このような市場の反応となった背景の主なポイントを以下に振り返ろう。

まず、米国景気は足元、底堅いと指摘している。1-3月期のGDP(国内総生産)成長率は前期比年率0.3%減だったが、大半は駆け込み輸入の増加(純輸出のマイナス)によるものだ(図表2参照)。

会見でパウエル議長は民間最終需要が高い伸びを維持していると指摘し、1-3月期のマイナス成長はあくまで特殊要因という認識を示した。

次に、先行きについては、今回の声明文に追加されたように「一段と」不確実性が高まったと指摘している。その意味するところは物価と失業率の両方の上昇リスクが高まるという、難しい局面であることを示唆している。FRBの2つの使命の「物価の安定」と「雇用の最大化」は両立が難しいという矛盾もある。しかし、現実には、物価上昇、景気悪化(≒失業率上昇)のどちらかが強く表れて、政策の優先順位を決められることが多い。

しかし、歴史的な関税政策を前に、FRBは今後の見通しが不確実な中、様子見としている。そのうえ、指標も安定感に欠ける。例えば、物価の先行きを反映する傾向がある期待インフレ率はばらつきが大きい(図表3参照)。国債と物価連動債の利回りの差から市場の物価予想を示す(2年物)ブレーク・イーブン・インフレ率は比較的落ち着いているが、一方で、消費者調査に基づいたミシガン大学の1年先予想インフレ率は4月分が6.5%とインフレ懸念の強さを示唆している。もっとも、市場ベースと調査ベースは対象などの違いから比較には無理もある。また調査ベースの期待インフレ率は食品など身近な商品の値上げで高めに出る傾向がある。その上、関税による価格上昇への不安が押し上げた節もあり、このままでは使いにくいだろう。

米国経済は利下げを急がないアプローチを正当化するが

このような不確実性を前にFRBはどう対応するのか? 会見で質問が多かった、物価を優先するのか、景気を優先するのかに対しパウエル議長は難しい判断になるとして明確な回答を避けた。

では、何が優先順位の決め手かといえば、ハードデータを重視するということだ。例えば、物価であれば消費者物価指数などがハードデータである一方、先に示した調査ベースのソフトデータは参照するとしても重視しない方針のようだ。会見でパウエル議長はハードデータとソフトデータのリンクについて(否定はしないが)疑問も残ると述べるなど、ハードデータ重視の姿勢を繰り返した。

他にも、会見でパウエル議長が会見で強調したのは足元の米国の経済環境は様子見(据え置き)を正当化できるという点だ。1-3月期は輸入増加でマイナス成長となったが景気は底堅く、インフレは鈍化傾向ながら物価目標をやや上回っている。景気悪化を見越して前倒し的な利下げをする環境にないと説明した。パウエル議長は前回(2019年)前倒し的利下げを実施できたのはインフレ率が物価目標を下回っていたからと指摘している。

パウエル議長の会見などを踏まえると、物価や失業率などハードデータに変化が表れるまで、様子見姿勢を続ける可能性が高そうだ。市場が6月のFOMCでの利下げ見通しを3割程度から2割程度に引き下げたのは、この姿勢を反映したためと思われる。またトランプ政権は相互関税の上乗せ分の適用を90日間停止しており、関税交渉の動向や経済の影響を見極める必要があり、利下げは少なくとも7月のFOMC以降と思われる。

しかし、1-3月期のGDPで個人消費は、堅調な前期の反動という面はあるが、減速するなどハードデータに気になる数字がないわけではない。今後の景気とインフレ動向次第ではあるが、筆者は年後半に2回から3回の利下げをメインシナリオとしている。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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