Article Title
4月の米CPI、注目された関税の影響はこれから
梅澤 利文
2025/05/14

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

4月の米CPIは関税の物価に対する影響が注目された。しかし、総合CPIの前月比の伸びは市場予想を下回ったことなどから懸念は後退した。米中貿易協議が進展し100%を超える報復関税合戦については不安が後退したことも安心材料となっている。当面は安心感が優勢となる可能性もあろう。ただし、関税の物価の押上圧力が現れるのはまだ先となる可能性もあり、引き続きデータを見守る必要がありそうだ。




Article Body Text

4月の米総合CPIは前期比0.2%上昇と市場予想を下回った

米労働省が5月10日に発表した4月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比の上昇率が2.3%と、市場予想、3月(共に2.4%上昇)を下回った(図表1参照)。変動の大きい項目を除いたコアCPIは2.8%上昇と、市場予想、3月と一致した。

短期的な変動を示唆する前月比は総合CPIが0.2%上昇と、市場予想の0.3%上昇を下回った。前月は0.1%下落だった。4月のCPIはトランプ関税による物価上昇の影響は限定的であったことを好感して、米国株式市場は米中貿易協議が進展した後の上昇傾向を維持する動きとなった。ただし、トランプ関税の影響は今後表面化する可能性もあり、引き続き注視は必要だろう。

サービスの寄与は拡大したが、特定の品目の価格変動に過ぎないようだ

4月の米CPIはトランプ関税による物価押し上げへの影響が注目されたが、前月比の伸びは市場予想を下回るなど、無難な内容だった。物価圧力が懸念したほどには顕在化していない背景として、米企業が輸入コストの増加分を吸収している可能性があることや、前倒し輸入などを受け、足元で販売されている輸入品の多くが、中国などへの関税発動が本格化する前に手当てしたものであることが考えられる。関税の影響を考えるにあたり、4月のCPIの内容を振り返る。

総合CPIの前月比の伸び(4月は0.2%上昇)を、エネルギー、食品、財、及びサービスの4項目に分けて寄与度をみると(図表2参照)、サービスのプラス寄与が3月に比べ拡大した。伸びで見ると、サービスは4月に前期比で0.3%上昇し、前月の0.1%上昇を上回った。主な品目をみると、3月に大幅な下押し要因となった宿泊代は4月が0.1%下落と、大幅に下落した前月の-3.5%を上回ったことや、同様に自動車保険、航空運賃なども前月から改善した。一方で、賃料(0.3%上昇)などは前月と同じ伸びを確保した。

サービスの寄与拡大は自動車保険など前月の落ち込みが正常な水準に戻った面が大きいようだ。また、家賃など関税の影響を受けにくい品目は安定的な推移となった。。

次に、3月マイナスに寄与したエネルギーはガソリンが3月は前月比が6.4%減から4月は0.1%減となったことでほぼ説明される。ガスや電気料金は先月とほぼ同水準の伸びだったからだ。エネルギーの寄与は原油価格などの変動を反映したもので、関税とはあまり関係ないようだ。

食品はほぼCPIへの寄与が見られなかった。パンや魚介類などが上昇した一方、鳥インフルエンザの影響で3月は前月比で5.9%と上昇していた卵が4月は12.7%の急落となったことや、豚肉、野菜・果物なども下落し食品全体では前月比0.1%下落した。関税の食品に対する影響は小さいようだ。

関税の影響は全体としては限定的だが、一部に影響の兆しが見られた

(中国への)関税の影響を受けやすい項目は自動車や衣料品、玩具等でその多くは財項目に含まれるが、4月の財の伸びは前期比0.1%上昇に過ぎず、寄与度に前月から大きな変化は見られない。しかし品目別にみると、気になる点も見られた。

乗用車(新車)は前期比0.1%上昇と、3月の0.3%上昇を下回った。自動車の追加関税25%は4月に発動されたが、前倒し輸入が多かったとみられることなどから影響は限定的だった。貿易と直接の関係ないとみられるが中古車は0.5%下落と、前月の0.7%下落に続きマイナス圏となった。自動車など裁量消費を抑える動きがあったのかもしれない。関税の不確実性に伴う間接的な影響が消費の下押し圧力となった可能性も考えられる。

中国からの輸入が多いとみられる他の品目を見ると、衣料品は前月比0.2%下落と、3月の0.4%上昇を下回った。米国の1-3月期GDP(国内総生産)統計によると、関税を回避するための駆け込み輸入が急増した一方で、在庫投資も急増した(図表3参照)。当面は一定の商品に対し在庫のやり繰りで関税回避が想定されるが、潜在的な価格上昇リスクは残るだろう。また、輸入品が多い家具や家電製品の価格は急上昇した。家具(含むベッド)は4月が前月比で1.5%上昇した。おそらくではあるが、関税の影響を反映したようだ。

米中の関税は5月12日に米国が中国に課した145%は30%に、中国が米国に課した125%は10%へと各々引き下げが発表された。関税率が共に115%ポイント引き下げられるという劇的な変化を受け市場に安心感が広まった。ただし、中国に対してはフェンタニル対策とする20%と、相互関税の一律分(10%)の合計30%が課されている。また、上乗せ分の24%は90日間見送るとなっているが、今後の交渉次第では上乗せされるおそれもある。

100%を超える報復合戦の状況が終わり、当面は安堵が市場を支配するとみられる。しかし、30%であっても関税の影響は無視できる大きさではなく、引き続き、データを見守る姿勢は必要だろう。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


アルゼンチン、格上げの背景は構造改革への評価

5月のFOMC、利下げを急がない姿勢を示唆

4月の米雇用統計、関税の影響はほぼ見られないが

日銀は想定以上にハト派姿勢だったが、注意も必要

ベージュブックとFOMC参加者の最近の発言を検証

トランプ関税の影響を受けたIMF世界経済見通し