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- アルゼンチン、格上げの背景は構造改革への評価
フィッチ・レーティングスは、アルゼンチンの信用格付けを引き上げた。背景には、IMFの経済支援プログラム承認や為替制度の柔軟化などが挙げられる。ミレイ大統領の構造改革を受けインフレが鈍化した一方で、経済成長率はマイナスとなる局面もあった。しかし今後は実質購買力の改善を背景に成長率の回復が見込まれる。アルゼンチンの構造改革は道半ばの面もある。今後の持続性が課題となろう。
アルゼンチン格上げ、IMFからの経済支援や為替制度改革を評価
格付け会社フィッチ・レーティングス(フィッチ)は、5月12日にアルゼンチンの自国通貨建て長期発行体デフォルト格付け、長期発行体デフォルト格付けをCCCからCCC+へ格上げした。
フィッチがアルゼンチンを格上げした背景は、国際通貨基金(IMF)が同国に対し新たな経済支援プログラム(拡大信用供与(EFF))を承認したことと、承認の条件でもあった為替制度の柔軟化により、対外ポジションの改善が見られた点などを評価した(図表1参照)。23年12月に就任したアルゼンチンのミレイ大統領は自由至上主義(リバタリアニズム)を標榜し、様々な改革を導入した。構造改革の導入によりアルゼンチン経済などに混乱も見られたが、成果も現れているようだ。
アルゼンチンのインフレ鈍化はGDP成長率を押し上げる可能性も
アルゼンチンの信用格付けはフィッチのみならず、ムーディーズ・インベスターズ・サービスなど他の格付け会社も、一連の構造改革を背景に格上げする傾向にある。今回はフィッチの格上げ理由を中心に振り返る。
改革の成果が実感できるのはインフレ動向だろう。アルゼンチンの4月の全国消費者物価指数(CPI)は前年同月比で47.3%上昇と、24年4月の前年同月比289%をピークに、12ヵ月連続で鈍化した(図表2参照)。フィッチの予想では25年末には28%程度にまで鈍化することが見込まれている。
しかし、ミレイ政権の改革は当初、アルゼンチン国民に改革の代償としてGDP(国内総生産)成長率に影響が及んだ。24年のGDP成長率はマイナス1.7%と、フィッチの当初の想定を下回る成長率となった(図表3参照)。背景として、ミレイ政権による省庁縮小などに伴う公務員削減や、雇用環境の悪化、また社会保障の削減などが挙げられる。また、図表1にあるように政権発足後のインフレ率の上昇は実質購買力を低下させたと見られる。
しかし、インフレ鈍化に伴い、実質購買力は改善傾向だ。24年10-12月期の成長率は2.1%とプラスに転じた。今後はアルゼンチンの信用力も過去の最悪期に比べれば改善していることが景気の押上げ要因となる可能性もある。フィッチはアルゼンチンの25年の成長率を5.6%と予想している。
アルゼンチンの為替制度は変動バンド制に移行した
アルゼンチンの経済を振り返ってきた。ここで再びフィッチがアルゼンチンを格上げした主な背景を振り返ろう。1点目は、IMFが4月にアルゼンチンに対して計200億ドルの融資を理事会で承認したことだ。2点目はIMFの融資の条件でもあった為替制度の変更を断行したことだ。
IMFの融資は期間4年で、これによりアルゼンチンの短期的な債務返済リスクは低減したと見られる。なお、4月に承認され融資のうち120億ドルは月内に入金された。2点目の為替制度変更に伴うペソ下落を防ぐための準備金としてアルゼンチンが求めていたもので、IMFとの呼吸もあっているようだ。
2点目の為替制度について、アルゼンチン中央銀行は4月14日に為替制度を従来のクローリング・ペッグ制から為替バンド制へ移行した。図表1で不自然な右肩上がり(ペソ安)が続いていた時期の為替制度はクローリング・ペッグで、月に2%(25年1月からは1%に変更)切り下げる運営をしていたがこれを為替バンド制に切り替えた。
アルゼンチンは将来的に変動相場制を目指すと思われるが、その前段階となるのが準変動相場制となる為替バンド制だ。下限を1ドル1000ペソ、上限を1ドル1400ペソとしたあと、毎月上限、下限ともに1%ずつバンド幅を拡大させる。バンド内で為替レートは変動できるが、上限、下限を超える場合は為替介入で変動を抑える。またバンド内であっても、裁量的に介入も行えるようだ。
なお、アルゼンチンでは公式為替レートとは別に、ブルーレート(闇レート)など非公式の為替レートも存在し、非効率な経済の温床ともなっていた。闇レートによるドル需要(闇ドル)が根強く、公式為替レートと、非公式レートが過去においては大幅に乖離していた。しかし、足元では一連の為替制度の改革を受け、乖離は縮小する傾向にあるようだ。図表1にあるように、為替バンド制導入後、短期的にペソの変動はあったが、足元でバンド幅の中心(1ドル=1200ペソ)近辺でペソが推移している。新たな為替制度は順調な滑り出しにも見える。
しかし問題は残る。アルゼンチンの構造改革の中長期的な持続性だ。格上げされたといってもアルゼンチンの格付けはCCC格に過ぎない。理由はIMFの融資などで、短期的な債務返済に問題はなくてもさ、中長期的な債務負担は依然重いからだ。構造改革は道半ばで今後も続ける必要がある。
改革の持続性を見る上で注目したいのは10月の中間選挙だ。上院議員の3分の1、下院議員の半分の議席の改選で争われる。少数与党ゆえに議会運営に苦慮する面もあったミレイ政権は、財政改革の継続を訴えている。国民の審判はいかに。
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