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- S&P、インドを2007年以来18年ぶりに格上げ
S&Pグローバル・レーティングは、インドの長期債格付けを18年ぶりに引き上げ、見通しを安定的とした。主な理由は堅調な経済成長や金融政策・財政政策の信頼性向上である。インドは短期的には成長率が鈍化するものの、インフラ投資などを受けインドの中長期的な高成長への期待は残されている。なお、米国の関税政策などの影響をS&Pは小幅と見ている。税制改革には注意すべき点もあるようだ。
大手格付け会社のS&P、インドの格付けを18年ぶりに引き上げた
大手格付け会社のS&Pグローバル・レーティング(S&P)は8月14日に、インドの長期債格付け(自国通貨建て、外貨建て共に)をBBB-からBBBへ18年ぶりに引き上げた。見通しは安定的(ステーブル)としている。
S&Pは声明文で、主な格上げの理由として、インドの堅調な経済成長を挙げている。インド政府が5月末に発表した1-3月期のGDP(国内総生産)成長率は前年同期比で7.4%増と、市場予想の6.8%増、24年10-12月期の6.4%増を上回った(図表1参照)。インド政府は8月29日に4-6月期のGDPを発表する予定だ。市場予想を見ると、前年同期比で6.5%程度の伸びが見込まれている。
インドの経済成長は今後も概ね堅調と見込まれ、物価も鈍化傾向
S&Pがインドを格上げした際の声明文を参考にインド経済を展望する。インド経済は短期的には鈍化が見込まれるが、中長期的な高成長期待は維持されている。経済成長の持続により、インドの財政状況が改善することを、S&Pは想定している。
インドのGDP成長率の短期的な鈍化が見込まれることから、S&Pはインドの25年度(2025年4月~2026年3月)の成長率を6.5%と見込んでいる。22年度~24年度の成長率が年平均8.8%であったことと比べると、減速感が漂う。
成長率の押し下げは昨年10月には6%を超えたインフレによる消費者マインドの悪化と、物価対応による高金利政策が考えられる。しかし、インドの消費者物価指数(CPI)は最新の25年7月分が前年同月比で1.55%にまで鈍化している(図表2参照)。インド準備銀行(中央銀行)は物価の落ち着きを確認した上で、今年2月に利下げを開始した。
インフレ鈍化と金融緩和を受け、インド経済の成長率は今後回復が見込まれる。S&Pはインドの今後3年の年平均成長率は6.8%程度と予測している。足元の成長率は短期的に鈍化しているが、S&Pはインドの長期的成長シナリオを維持しているようだ。
なお、米国の関税政策がインド経済に与える影響についてS&Pは比較的小さく、対応可能な範囲とみているようだ。インド経済の貿易への依存は比較的小さく、経済成長の6割程度は個人消費により支えられる構造であることをS&Pは指摘している。
また、トランプ大統領はインドからの輸入品に対して8月1日から25%の相互関税を課すと発表した。さらに、トランプ大統領は6日、ロシアから原油や石油製品を購入しているとして、インドからの輸入品に25%の追加関税(2次関税)を課す大統領令に署名した。
インドの原油輸入量の約35%がロシア産原油と言われているが、インドは2次関税の懸念が高まった頃から、ロシアからの輸入を一部停止しているようだ。S&Pの推定ではロシア産原油の価格と、国際的に取引されているドバイ原油の価格に大きな違いはなくなっている。ロシアへの影響の大きさに比べればインドへの影響は小さいと判断したようだ。制裁発動は8月27日となっているが、仮にロシア、米国、ウクライナなどによる和平交渉が進展を見せれば2次間税は必要がないかもしれない。
次に、相互関税については、インドの税率はベトナムやインドネシア。フィリピンなどすでに合意した他のアジアの国々に比べてやや高い。しかし、インドの対米輸出額は対GDP(国内総生産)比率で2.2%程度である。関税の成長率への影響は0.2%~0.4%程度との見方が多く、インドの成長力の高さからみて対応可能な範囲と見られる。
インドの金融・財政政策も格上げの背景だが、足元の動きに注意も必要
S&Pはインドの金融政策の信頼性改善も格上げの背景と指摘している。インドでは2015年に政府とインド中銀が4%の中心から上下2%の範囲に収めることを長期的目標とするインフレターゲットを導入した。導入前のインフレ率は2桁を記録した時期もあるが、インド中銀は物価抑制を重視する姿勢を維持してきた。ロシアのウクライナへの軍事侵攻によるエネルギー価格の大幅な変動局面でも、インド中銀はインフレをコントロールしていたとS&Pは前向きに評価している。
インド政府の財政政策も格上げの背景とS&Pは指摘している。S&Pの予測では、インドの財政赤字対GDP比率は26年度の7.3%から、29年度は6.6%に低下(改善)する見込みだ。重要なことは配分先で、単に歳出を減らして同比率を低下させるのではなく、インフラ投資の拡充など経済の成長基盤を重視した予算配分としている点もS&Pは格上げの判断材料としている。交通網の整備などのインフラ投資はインドの長期的な成長底上げに寄与する可能性があるからだ。
ただし、財政政策では気になる動きもある。インドは消費税に相当する「物品・サービス税(GST)」を大幅に引き下げる方針を15日に発表した。また、2017年に州ごとにばらばらだった間接税を4段階のGSTに統一する改革を行った。これをさらに段階的に税率を簡素化することが検討されているようだ。税制改革を進めるという面もあるが、本当の狙いはトランプ関税が国内経済に与える影響を緩和するための減税政策であると思われる。GST引き下げの発表を受け、S&Pの格上げで低下したインド国債利回りは、それを相殺するように上昇した。インドの財政政策の評価には、もう少し先行きを見守る必要がありそうだ。
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