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- インドネシア中銀、再び市場にサプライズ利下げ
インドネシア中央銀行は市場予想の据え置きに反し、政策金利を0.25%引き下げ5.00%とした。利下げは2会合連続で、昨年9月から合計1.25%の引き下げとなる。背景には、米国との貿易協定や世界経済の不透明感、物価や通貨ルピアの安定、貸出しの伸び悩みへの対応がある。今後も金融緩和姿勢は維持される見通しだが、為替や米国の金融政策次第で利下げペースが調整される可能性がある。
インドネシア中銀、7月に利下げを決定し、景気下支えの意向を示す
インドネシア中央銀行は8月19日~20日に開催した金融政策決定会合(会合)で、市場予想の据え置きに反し、政策金利(7日物リバースレポ金利)を0.25%引き下げ、5.00%に決定した(図表1参照)。利下げは7月に続き2会合連続となる。昨年9月からの利下げ幅は合計して1.25%となった。米国の相互関税などで世界経済に不透明感が強まるなか、景気のてこ入れを急いでいる。
インドネシア政府は7月22日に米国と貿易協定の共同声明を発表した。協定の概要によると、インドネシアは米国からの輸入品の99%で関税を撤廃するかわりに、米国側は相互関税率を32%から19%に下げることなどが主な内容だ。
インドネシアの4-6月期GDP成長率の堅調さが据え置き予想の主な背景
市場では大半(75%程度)が、今回の会合でインドネシア中銀は据え置くと見込んでいた。主な理由は2週間(8月5日)程前に発表された4-6期GDP(国内総生産)成長率が5.12%増と、市場予想の4.8%増を上回るなど堅調であったことが大きいとみられる(図表2参照)。
ただし、GDPを項目別にみると注意点もある。まず、主な押し上げ要因は輸出で4-6月期は前年同期比約10.7%増と、前期の6.5%増を大幅に上回ったが、これは米国の関税政策の不確実性を前にした駆け込み輸出の急増で、持続性には疑問も残る。また、別の押し上げ要因として投資の増加があるが、投資活動を維持するには、低金利が望ましい。
一方で、個人消費は4-6月期が4.97%増と、前期の4.95%増とほぼ変化がない。個人消費の伸びは順調な数字ではあるが、インドネシアの長期トレンドを下回る点で、やや物足りなさが残る。
このように政策金利の据え置き予想の背景となった4-6月期の成長率も一部に弱さは見られる。加えて、次の3つの要因が利下げを支持したようだ。
インドネシア中銀は、物価と為替の落ち着き、貸出動向に注目したようだ
1つ目は物価の落ち着きだ。インドネシアの7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で2.37%上昇と、インドネシア中銀の物価目標(2.5%±1%)の中心付近に収まっている(図表3参照)。変動の大きい項目を除いたコアCPIも同様だ。
なお、CPIは足元上昇傾向ではあるが食品価格などの上昇によるもので、インドネシア中銀は変動の抑制は可能と指摘している。また、コアCPIについては4月をピークに鈍化傾向だ。インド中銀は当面の物価の安定に自信を示し、25年、26年とインフレ率は物価目標の範囲に収まるとの見通しを維持た。この点が利下げを支持した要因のようだ。
2つ目は通貨ルピアの落ち着きだ。図表1でルピアの動向を振り返ると、4月の相互関税発表前後まではルピア安傾向だった。しかし、相互関税発表後の市場の反応を受けトランプ政権が関税を段階的に緩めたことや、トランプ大統領の米当局に対する金融緩和圧力などがドル安要因となった。一方で、インドネシア中銀は海外からインドネシアへの資金流入が続いたことや、プラスの実質金利(名目金利から物価変動の影響を除いた金利水準)を維持する政策を維持したこともルピアの安定を支えたと指摘している。このようにルピアの落ち着きが利下げを支持する要因となった。
なお、インドネシア中銀は今後についてもルピアの安定を重視することを強調している。伝統的に為替の安定を重視するインドネシア中銀らしい指摘である。しかし、今回の予想外の利下げを受け、小幅ながらルピア安が進行した。市場との対話には改善の余地があるのではないだろうか。
3つ目は利下げによる貸出拡大への期待だ。インドネシア中銀のペリー総裁は会見で貸出の伸び悩みをインドネシア経済の懸念要因と指摘している。声明文の貸出の数字を見ると、7月の貸出の伸びは前年同月比7.0%と、6月の7.8%から縮小が示されている。インドネシア中銀の想定する25年の貸出の伸びは8~11%を適正範囲と考えており、現状は目標から離れつつある。貸出を目標に近づけるには、利下げが必要と判断したようだ。
インドネシア中銀の今後の金融政策を占うと、金融緩和姿勢を維持するものと思われる。相互関税で一応の合意がインドネシア、並びに他の多くの国々で見られたが、それでも経済には下押し要因があると声明文で述べていることなどが理由として挙げられる。
しかし、金融緩和のペースに影響を与える要因もある。重要なのは通貨ルピアの動向で、為替安定を顧みない金融緩和は考えにくく、慎重な利下げとなるだろう。別の要因は米国の金融政策で、会見でペリー総裁は米国の年内2回の利下げを想定していると指摘した。米国の利下げが想定以下なら、インドネシア中銀も利下げペースを緩めるかもしれない。インドネシアの利下げは4.5%までが当面の下限ではないかと筆者は見ている。
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