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日本の7月CPIの要点整理から見える日銀の勘所
梅澤 利文
2025/08/22

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概要

日本の7月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比が依然3%台だったが、先行き鈍化の可能性がある。日銀は7月の展望レポートで、日本のインフレ率は26年度に1%台後半まで減速し、27年度には2%程度に落ち着くと予想している。食品価格の前年比での鈍化などが背景だ。一方、賃金上昇を反映するサービス価格の底堅さも求めらる。日銀は当面、賃金やサービス価格の動向を慎重に注視するだろう。




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日本の7月の消費者物価指数は前年同月比で3%を上回る推移が続いた

総務省が8月22日に発表した7月の消費者物価指数(CPI)は変動の大きい生鮮食品を除いたコアCPIが前年同月3.1%上昇と、市場予想の3.0%上昇を上回った。6月の3.3%上昇からは鈍化した(図表1参照)。総合CPIは3.1%上昇と、市場予想の3.1%上昇と一致したが、6月の3.3%上昇からは鈍化した。一方、生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPIは3.4%上昇と、市場予想、前月と一致した。日銀が注視するコアCPIは、これで40ヵ月連続して物価目標の2%以上で推移し続けたことになる。

短期の動向を示唆する前月比の伸びは総合、コアCPI、コアコアCPIともに7月は0.1%上昇だった。

日本の7月の総合CPIはエネルギーと食料が前月を下回った主な背景

7月の日本のCPIの特徴を確認すると、エネルギーなどが押し下げ要因となった一方、食料は前年同月比では最大の押し上げ要因だった。サービス価格は底堅く、横ばいとなっている。

まず、CPI全体の動きとして、「総合CPI」と「コアCPI」の前年同月比の伸びは6月を下回り、インフレ鈍化がみられた。一方で、変動項目として生鮮食品とエネルギーを除く「コアコアCPI」は前年同月比で3.4%上昇と、前月から伸びは横ばいだった。この差は主にエネルギー価格の鈍化が背景で、7月のエネルギー価格は前年同月比0.3%の下落と、6月の2.9%上昇からマイナスに転じた。

ただし、エネルギー価格が下落した背景は、昨年(24年)の6月から7月にかけて、電気代・ガス代への補助が終了し、これらの品目の価格が急上昇したことの反動が今年になって表れたものである。電気・ガス代補助金は今年の7月から9月の使用分に対して再開された。CPIへの反映は8月から10月になると見られ、来月以降のインフレ鈍化要因となりそうだ。

7月の総合CPIは3.1%の上昇となったが、伸びの内容を寄与度で見ると、大半は食料で7割近くを占めた(図表2参照)。7月の食料は前年同月比で7.2%上昇したが、生鮮食品を除いたベースでは8.3%上昇と6月の8.2%上昇を小幅ながら上回り高止まりした。前年比の伸びではコメ類、チョコレート、コーヒー豆などが高い伸びとなった。特にコメ類は7月に前年から90.7%上昇している。

しかし、コメ類は前月比で見ると7月は0.6%減と下落した。背景は備蓄米(CPIのコメ類には含まれないが)放出によるコメ価格の下落効果だろう。スーパーでの販売価格(5キロ当たり)は5月後半をピークに下落傾向だ(図表3参照)。なお、最新(8月4日~10日の平均)の販売価格は5キロあたり税込みで3737円と前週を上回るが、備蓄米より割高な25年産の新米の販売が始まったことの影響が可能性として考えられる。コメの価格は新米が出る中で新たな展開となりそうだが、食料全体は昨年夏から上昇したこともあり、今年後半は対前年比ではある程度の鈍化が想定される。

日銀の利上げ判断に重要と思われるサービス価格は底堅く横ばい

日銀は7月の経済・物価情勢の展望(展望レポート)で日本の物価について前年比のインフレ率は食料品価格上昇などの影響が弱まり、経済の成長ペースも鈍化するため、26年度に1%台後半まで減速するが、27年度は2%程度に落ち着くとの見通しを述べている。今後のデータ次第ではあるが、7月のCPIからも先行き鈍化の兆しがうかがえる。生活に直結する食品やエネルギー価格の高騰に対しては、ある程度の下落が必要だろう。

一方で、物価の伸びを下支えする要因として、賃金の伸びを反映するサービス価格は伸びを確保したいというのが日銀のシナリオであろう。

7月のサービス価格は前年同月比1.5%上昇と、6月から横ばいだった(図表4参照)。自宅を家賃換算する帰属家賃を除いたベースでは2.1%の上昇だった。民間と同等の一般サービスは1.9%上昇で、こちらも前月から横ばいと底堅く推移している。

日本の実質賃金はマイナス圏で、展望レポートの見通し通りに物価が減速すれば実質賃金が改善する可能性はある。問題は、物価鈍化に伴い賃金も減速する懸念があることだろう。日銀が利上げ判断をするにあたり注目する材料は山ほどあるが、賃金動向、またはサービス価格への注目度は高いと見ている。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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