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クラリティ法案の延期とステーブルコインの課題
梅澤 利文
2026/01/19

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概要

米国では暗号資産規制の枠組みを定めるクラリティ法案の審議が上院で延期された。ステーブルコインの規制などが議論が続いている。昨年のジーニアス法の成立でステーブルコインへの期待が高まる一方、銀行預金からの資金流出や金融システムへの影響が懸念されている。法案ではステーブルコインの利払い制限や監督権限の線引きも検討されており、今後の動向が注目される。




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下院では可決済みのクラリティ法案、上院審議で遅れの可能性

米上院銀行委員会は1月14日、暗号資産(仮想通貨)の規制枠組みを定める法案である暗号資産市場構造法案(いわゆるクラリティ法案)の審議を延期すると発表した。大手暗号資産取引所が同法案への支持を撤回すると表明したことから、成立遅れの可能性が不安視されている。

米国では25年7月に暗号資産の一種であるステーブルコインの規制に関する枠組みを定めるジーニアス法が成立した。ステーブルコインは法定通貨や国債などを裏付けに企業などが発行し、価格が変動しないように設計されたデジタル資産だ。ジーニアス法では法定通貨と1対1で価値を安定させる準備金として米ドルや同等の流動性資産を持つことを義務付ける点などが明記された。ジーニアス法の成立を受け、ステーブルコインの利用に対する期待が一気に高まった。

クラリティ法案は、デジタル資産に関する規制の枠組みをより明確にする位置づけだ。暗号資産のトークンが証券なのかを定めることなどが内容に盛り込まれる公算だ。クラリティ法案の可決が遅れている背景の1つに、ステーブルコインの利用拡大に対する銀行など金融機関の危機感が指摘されている。

ステーブルコインの実質的な利払いは銀行預金に影響を与える可能性も

クラリティ法案の審議の遅れといっても、ステーブルコインに対する期待が後退したわけではない。むしろ期待が高いだけに、銀行など既存の金融機関への影響に配慮すべき規模に成長する可能性が高く、これに対する配慮に迫られたことが、一部の参入者から参入障壁として不満が出たと捉えるべきだろう。クラリティ法案の合意を目指す動きは続くと筆者は理解している。

クラリティ法案の審議は下院では可決済みだが、上院では様々な課題が検討されている。ここでは銀行預金への影響に主な焦点を当てる。

ステーブルコインを単に保有しているだけで利子を付与することはジーニアス法同様、クラリティ法案でも認められない方向だ。1万円札などの現金を単純にデジタル化したものがステーブルコインだと捉えれば、利子がつかないのは自然だ。

しかし、法案ではステーブルコインを市場に流動性供給として利用した場合や暗号資産取引所への貸出に対する報酬(ステーキング)などは認める方向だ。報酬を利子に見立てれば、ステーブルコインは現金よりも預金に近い性格へと変化することになる。法規制前の現状においても、利回り提供をうたうステーブルコインは既に存在しているが、法的な位置づけが明確となれば、急成長する可能性も考えられる。

米金融当局は金融のデジタル化を推進する一方でその影響の把握にも努めている。米財務省は昨年春にステーブルコイン市場の成長と銀行預金流出規模の試算をレポートで公表した。ステーブルコイン市場に限ると規模は25年4月末のレポート公表時点の約2340億ドルから、2028年末には2兆ドル程度にまで拡大すると見込んでいる。また、銀行預金の流出額は潜在的に最大で6.6兆ドル程度と試算している。

米国では25年10-12月期決算シーズンだが、先日、米大手銀行のCEOが決算発表会でステーブルコインに利払いを認めた場合、資金流出規模は財務省と同様の数字を指摘した。銀行預金の提供する利回りが低い中、それを上回る利回りをステーブルコインが提供すれば一気に資金シフトが進む懸念があるとも指摘した。仮にそのような事態となれば、銀行は低コストでの資金調達源を失うことから、市場金利で資金調達して貸出をすることになり、借手のコストが上昇する、もしくは貸出が不可能になる恐れがあると警告している。

米連邦準備制度理事会(FRB)は昨年末に公表したノートで銀行預金のステーブルコインへのシフトが与える影響の実証研究の結果を示している。その中で、急速な預金流出では、預金が1ドル減少した場合、貸出が1ドル超減少する可能性があることを指摘している。背景は、長期貸出が短期資金で調達することを迫られるためだ。デジタル資産へのシフトは長期的な流れとしても、流出速度のコントロールなどは必要がありそうだ。

デジタル通貨の今後は、可能性が多岐にわたるため見通しづらい

クラリティ法案の審議内容には、ステーブルコインの実質的な利払いの取り扱い以外にも、暗号資産の現物市場の監視権限を商品先物取引委員会(CFTC)に付与するのか、それともSEC(証券取引委員会)とするかの線引き(SECとCFTCが共同して監督するものもあるようだ)なども検討されている。暗号資産だけでなく、既存の金融市場に影響を与えうる内容もあるだけに、今後の審議の動向を見守りたい。

なお、ステーブルコイン隆盛で、注目されなくなった感がある中央銀行デジタル通貨(CBDC)だが、年末に中国から意外な発表があった。

中国人民銀行(中央銀行)は、昨年末、デジタル人民元ウォレットを運営する商業銀行が26年1月1日から、保有額に応じて顧客に利息を支払うと発表した。これまでCBDCは「現金」をデジタル通貨で置き換えたイメージだったこともあり、利子がつかないことが通常と思われてきたが、ウォレットを銀行の負債に計上するなど、通貨としての安全性を高め、利付きとする戦略だ。

CBDCをデジタル通貨戦略の主体としているユーロ圏はCBDCの発行はこれからだが、これまでの欧州中央銀行(ECB)の発表では無利子となっているだけに、中国人民銀行の政策は異例だ。

中国はCBDCを段階的に導入してきたが広がりを見せていない。中国の利回りは低く(図表1参照)、金利面からは利付CBDCの人気に今すぐ火が付くようには思えない。ただし、デジタル通貨の将来像はあまりに可能性が多いだけに、予見しがたく、幅広く見守る必要がありそうだ。 


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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