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参議院選挙と岸田政権の経済政策
市川 眞一
2022/01/07

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概要

2022年は7月に参議院選挙が行われる。この選挙の特徴は、地方と業界団体が結果を大きく左右することだ。参院選を乗り切れば、長期政権化が視野に入るだけに、岸田文雄首相の当面の経済政策は既得権益を強く意識せざるを得ないだろう。つまり、外部環境の劇的な変化により軌道修正を迫られる以外、政治面から見た政策の革新性を期待するのは難しいと想定される。



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参議院:田中角栄が目を付けた重要性

現行憲法によれば、内閣総理大臣の選出、予算、条約の議決に関して衆議院の優越が認められている一方、一般法案や国会同意人事は衆参両院の権限が基本的に同じだ。参議院の重要性を強く意識、同院で大きな勢力を持つことにより、政治の主導権確保を図ったのが田中角栄元首相ではないか。旧選挙制度では、都道府県別の「地方区」と全国一律の「全国区」により選挙が行われていた。同元首相は全国区に産業別の支持団体が推す候補を擁立して各団体の票を競わせ、その結果を政策の優先順位に連動させることにより、参議院に「田中王国」を築いたと言われている。

橋本龍太郎首相の下で行われた1988年7月の参議院選挙で歴史的大敗を喫して以降、2013年7月から2016年7月の3年間を除き、自民党は参議院において単独過半数の確保には至っていない(図表1)。従って、政権を決める衆議院で過半数を握っても、同党は連立を続けてきた。

2013年7月の参院選は、発足から7ヶ月となった第2次安倍内閣が高く評価され、自民党の議席獲得率が53.7%に達している。2012年12月の総選挙における政権奪還に続き、この参院選での圧勝こそが、第2次安倍政権を長期化させた大きな要因と言えるだろう。もっとも、その後、安倍首相の下で参院選は2回あったが、自民党の議席獲得率は46.3%と46.0%であり、50%を超えることはできなかった。

 

岸田首相の選挙戦術:政策の革新性より既得権益重視

今年7月の参院選の場合、定数は前回から3議席増えて124議席となるが、このうち選挙区選挙の42人が1選挙区において複数当選の中選挙区で選ばれ、50人が比例区によって選出される(図表2)。衆議院選挙の場合、総定数465議席のうち、62.2%に相当する289議席が小選挙区で決まるため、野党が自民・公明両党の壁を突破するには高いハードルを越えなければならない。その結果、組織力の強い現連立与党が圧勝し易いと言えるだろう。他方、参院選では、2~6人区と比例区は与野党が議席を分け合う傾向が強く、総選挙に比べ差を付け難い。ただし、相対的に最も多くの議席を得るためには、1人区で勝つ必要がある。

また、かつての全国区は「比例区」に衣替えしたものの、基本的な選挙に勝つためのルールは同じだ。有力な業界団体の力が引き続き大きな影響力を持っている。

岸田首相が政権を安定させるには、参院選での勝利が必須要件に他ならない。選挙戦術としては、1人区で圧勝し、比例区でも優位を保つ必要がある。つまり、当面の岸田政権の政策は、地方を優遇し、組織力の強い産業別団体からの支持を固められるものでなければならない。畢竟、既得権益を強く意識した政策を進めざるを得ず、改革よりも財政の活用による現状固定が優先されることになるだろう。

2013年の参議院選挙で勝利した後、安倍政権は急速に改革、即ち成長戦略実現への意欲を失って行った。岸田首相については、外部環境の劇的な変化以外、政治面から見た政策の革新性を期待するのは難しいのではないか。


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市川 眞一
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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