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金を組み込んだ分散投資の時代②
萩野 琢英
2022/01/31

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概要

今後、米国金融当局は1979年以来のインフレを抑制するために金融引き締めを本格化させる。 『強気相場は、悲観の中に生まれ、懐疑の中に育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく』という格言があるが、ITバブル以降、金の強気相場は利上げという悲観の中で生まれている。過去の経験則からは、金のパフォーマンスが相対的優位になる局面がきているようだ。



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利上げの開始前後で底を打ってきた金価格

【アセット・クラスごとに価格の変動サイクルは異なる】

200年以上にわたる資産管理運用業務で、ピクテはさまざまなアセット・クラスごとの価格変動サイクルの違いを経験してきた。そして、運用成果の約9割が資産配分によって決定されるため、我々は資産運用においては分散投資とアクティブな資産配分の変更(アクティブ・アセット・アロケーション戦略)が重要だと考えている。

【金価格は金利と物価動向に、株価は景気動向に反応するため変動サイクルが異なる】

金価格と株価の変動サイクルは異なり、また相関も低い。であるから分散投資の資産として重要なのである。株式市場は金融緩和が上昇の源泉となる金融相場、金利上昇を伴いながら企業業績の拡大が株価を押し上げる業績相場、そして本格調整というサイクルがあると言われている(図1)。 

金融相場から業績相場への移行は米国金融当局による利上げ開始前後で、かつ10%から20%程度の調整局面を伴うことが多く、今がその段階にあると考えられる。 

本格調整局面は米国短期金利(米国FF金利)の低下局面と一致することが多い。つまり長期的に考えると株式への投資タイミングは短期金利が下がりきった局面、売却タイミングは業績相場の後期となろう。これは株式市場が景気動向に約1年ほど先行しているからと理解している。

一方金価格は利上げ前後で底を打って株式の本格調整時期に向けて急上昇し、金融相場の局面で株価の上昇に勢いが付いてきた頃にピークを打つというサイクルを2000年以降繰り返している。このため金への投資タイミングは米国の利上げ前後となり、売却タイミングは金融相場で株式市場に勢いがついてきた頃であった。利上げに金が反応するのは物価に敏感に反応するアセット・クラスだからで、利下げに反応するのは実質金利の低下に反応していると考えている。金は局面によって反応する要因が変わるアセット・クラスと考えると分かりやすい。

図1:金価格、世界株式、米国消費者物価変動率、米国FF金利の推移
月次、期間:1994年12月~2021年12月

※金:金スポット価格(米ドルベース)、世界株式:MSCI世界株価指数(米ドルベース)
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成

想定される3月からの利上げ

今後、米国金融当局は1979年以来のインフレを抑制するために金融の引き締めを本格化させる。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は1月26日に行われた米連邦公開市場委員会(FOMC)後、3月からの利上げと保有資産を大幅に縮小させる量的引き締め(QT)も早期に行うことを表明している。 

既に米国の物価上昇率(米国消費者物価指数の変動率、前年同月比)は2021年12月で7.0%と1982年以来の上昇率となっている。4月以降は去年の上昇率が高いので(2021年2月1.7%、3月2.6%、4月4.2%)伸び率は徐々に鈍化してくると想定されるが、足元の物価上昇圧力は強い。1月28日に発表された2021年10月~12月の民間部門の賃金・給与上昇率は5.0%(前年同期比)と過去最高を記録した。

【本格調整に入るリスクも視野に入れて分散投資を】

米国金融当局はインフレ加速のリスクを見過ごし、政策の転換が遅れてしまったようだ。実質短期金利のマイナス幅(米国FF金利-米国消費者物価変動率)が1970年以降最大(図2)であることもそれを物語っている。またバイデン政権が指名している新たなFRB首脳部は格差是正を重視する理事が多く物価動向には敏感であろう。インフレは低所得者の生活を苦しめ、貧富の格差を拡大させる。このため今回の金融引き締めはこれまでのインフレ予防型の利上げ局面とは明らかに異なるであろう。今後の金融政策次第では1970年代のようにインフレを沈静化させるためにリセッションを招くリスクもある。それは業績相場が短期間に終了し本格調整に入るリスクを意味する。今後は本格調整も視野に入れて分散投資を進めるべきだと考えている。

図2 金価格、世界株式、米国消費者物価変動率、米国FF金利の推移
1971年1月末=100、金価格・世界株式:対数チャート、米ドル
月次、期間:1971年1月~2021年12月

※金:金スポット価格(米ドルベース)、世界株式:MSCI世界株価指数(米ドルベース、配当込(ネット))
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成

【過去4回あった物価上昇率が短期金利を上回る環境下での金融引き締め~本格調整局面では金に軍配】

今回と同じく物価上昇率が短期金利を上回る、あるいは既に上回っている環境下における利上げは1970年以降では第一次オイルショック、第二次オイルショック、リーマンショック、コロナショック時であったが、いずれの期間でも金のリターンは世界株式を上回っている(図3、ITバブル時は短期金利が物価上昇率を上回っており、参考として表示)。また、利上げ開始から利下げ終了(株式の本格調整の終了前後)の期間においても同様である(図4)。 

図3 米国の消費者物価上昇率がFF金利を上回ったことがある利上げ局面における金と世界株式の累積リターン(利上げ局面の期間)
月次、米ドルベース

※金:金スポット価格(米ドルベース)、世界株式:MSCI世界株価指数(米ドルベース、配当込(ネット))
※リーマンショック、コロナショック:直前の利上げ局面
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成

図4 米国の消費者物価上昇率がFF金利を上回ったことがある利上げ局面における金と世界株式の累積リターン(利上げ開始から利下げ終了までの期間)
月次、米ドルベース

※金:金スポット価格(米ドルベース)、世界株式:MSCI世界株価指数(米ドルベース、配当込(ネット))
※リーマンショック、コロナショック:直前の利上げ局面以降
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成

【金の上昇相場は悲観の中に生まれている】

ボルカー元FRB議長によるインフレ退治が行われた1980年代初頭からFRBは物価抑制を実施し、それはグリーンスパンの時代にも引き継がれた。こうした高金利環境下では金利のつかない金の魅力は低下し価格は調整を続けた。その政策が転換され、実質短期金利がマイナスになったのはITバブル崩壊後である。それ以降はまた1970年代のように金利引き上げが金の上昇転換タイミングとなっていた。 

『強気相場は、悲観の中に生まれ、懐疑の中に育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく』という格言があるが、金の強気相場は利上げという悲観の中で生まれているといえよう。


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萩野 琢英
ピクテ・ジャパン株式会社
代表取締役社長

 日系証券にてアナリスト業務を経てロンドン・ニューヨーク現地法人勤務を経験。2000年にピクテ入社、投信業務、投資顧問業務、商品開発、マーケティング業務に携わる。2007年からはマネージング・ダイレクターとして、グループ本社(ジュネーブ)にて商品開発、運営業務に従事。帰国後、2011年12月に日本法人の代表取締役社長に就任。ピクテ・グループ・エクイティ・パートナー。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、著書:「211年の歴史が生んだピクテ式投資セオリー」


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