Article Title
7月FOMC議事要旨の解釈とジャクソンホール会議の見通し
田中 純平
2021/08/23

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

8月18日に公開された7月FOMC議事要旨をきっかけに、株式市場ではFRBによる年内のテーパリング観測が高まった。FOMCメンバーの想定通りにこのまま米国経済が回復すれば、おそらくテーパリングは11月又は12月のFOMCから開始されることが想定されるが、そのシナリオが崩れるとすれば米国内におけるデルタ型変異ウイルスの感染拡大であろう。



Article Body Text

7月FOMC議事要旨の発表をきっかけにテーパリング観測が高まる

FRB(米国連邦準備制度理事会)が8月18日に公開した7月FOMC(米国連邦公開市場委員会)の議事要旨では、大半の参加者(most participants)が想定通り米国経済が回復すれば.年内に資産買入れの減額(テーパリング)を行うことが適切だと判断していることが明らかとなった。

様々な参加者(various participants)からは経済や金融情勢を考慮すれば今後数ヶ月でテーパリングを開始することが正当化されると言及された一方、それ以外の数名(several others)は労働市場の回復がテーパリング開始の条件である「さらなる著しい進展」にはほど遠いとして、2022年初めのテーパリング開始が適切との見解が示されたようだ。

テーパリング開始の時期については多少意見が割れているものの、大半の参加者が年内のテーパリング開始が適切と判断していることが明らかとなったことから、18日の米国株式市場はテーパリング観測等が嫌気されてNYダウは前日比1.08%下落する展開となった(図表1)。では年内のテーパリング開始とは具体的にいつごろが想定されるのだろうか?

今年11月又は12月のFOMCでテーパリング開始か?

年内のFOMCは9月、11月、12月の計3回が予定されているが、9月のFOMCでテーパリングが開始される可能性は低いだろう(図表2)。

通常、FRBは金融政策の変更を前もって発表することが慣例となっており、9月のFOMCでテーパリングを開始するためには7月のFOMCで何らかのアナウンスメントをしておく必要がある。しかし、7月のFOMC声明文ではテーパリングについて今後の会合で「議論する」という表現にとどめているほか、7月のFOMC議事要旨からも差し迫った金融政策の変更は示唆されなかった。よって、9月のFOMCからテーパリングを開始することは拙速に過ぎると言わざるを得ないだろう。

おそらくこのまま順調に米国経済が回復すれば、9月又は11月のFOMCにおいてテーパリング開始の事前通知が行われ、実際のテーパリング開始は11月又は12月ごろになることが想定される。

ジャクソンホール会議ではサプライズ無し?リスクはデルタ型の感染拡大

米カンザスシティ連銀が米国ワイオミング州のジャクソンホールで毎年8月に開催する経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)が今週27日に開催される。当初は対面形式での開催が予定されていたが、公衆衛生上の理由からオンライン形式へ変更され、3日間の開催日程も1日に短縮された。このジャクソンホール会議ではFRB議長が講演することが恒例となっており、マーケットでは7月と9月のFOMC開催をつなぐ地ならし的な会合とも捉えられているが、FRB議長が金融政策について踏み込んだ発言をすることは稀であり、むしろサプライズ無しでイベントが消化される可能性もある。

波乱があるとすれば、新型コロナウイルスの変異ウイルスで感染力が強いとされる「デルタ型」の感染拡大であろう。7月FOMC議事要旨では、大半の参加者がデルタ型の感染拡大によって経済の完全な再開が一時的に遅れ、雇用や労働力の供給が抑制される可能性を指摘している。テーパリングの開始時期が延期されるシナリオにも注意が必要だ。


関連記事


騰勢を強める欧米株式市場 その原動力は何か?

加速する米国経済の再開 回復は「モノ消費」から「コト消費」へ

市場予想を大幅に超えた米国CPI 利上げ予想はどう変化したか?


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞歴を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして、主に世界株式市場の投資戦略などを担当。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演。2023年より週刊エコノミスト「THE MARKET」に連載。日本経済新聞ではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら