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自民党総裁選:重要なのは「誰か?」ではない
市川 眞一
2021/09/17

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概要

公示を迎えた自民党総裁選だが、実質的には岸田氏と河野氏の争いではないか。日本株は菅義偉首相が立候補見送りを表明して以降、大幅に上昇した。政権の安定化と新たな政策への期待が背景と見られる。ただし、4候補の経済政策は積極財政、格差の是正に重点を置く一方、成長戦略に関して際立った違いはない。結局、次の首相は実行力を問われるだろう。



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4人が立候補:2012年との類似性で実質的には岸田vs.河野

4人が立候補する今回の自民党総裁選は、野党時代ではあったが、谷垣禎一総裁が立候補の見送りに追い込まれた2012年9月の総裁選に似ている。この選挙、国会議員は198票、党員は300票であり、党員に人気のあった石破茂元農水相(当時)が有利と見られていた。しかしながら、5人が立候補して党員票が分散、第1回目の投票における1、2位により国会議員のみの決選投票が行われたのである(図表1)。結局、主要派閥から支持を集めた安倍晋三元首相(同)が逆転勝利、第25代自民党総裁に返り咲いた。

 

今回の総裁選は、国会議員383票、党員383票、計766票を争う(図表2)。1回目の投票で過半数を得る候補がいなければ、1、2位の決選投票になるのは2012年と同様だが、今回は自民党の47都道府県連も1票ずつ投票する。

 

第1回目の投票に関して、多くの派閥が自主投票を決めた。しかし、決選投票になれば、総裁選後のポスト確保にも影響するため、各派は概ね結束して行動するのではないか。その場合、自民党国会議員の4分の1が所属する細田派の動向が鍵になり、同派を実質的に率いる安倍前首相の意向が大きな影響を与えるだろう。

最初に立候補を表明したのは岸田文雄前自民党政調会長だが、続いて世論調査で幅広い支持を得ている河野太郎内閣府特命担当相も出馬を宣言、この2人の一騎打ちであれば河野氏が有利と見られた。しかしながら、候補者が4人になったことで、2012年と同様のシナリオが起こり得る。自民党内において、河野氏と対極にいる安倍前首相が、河野氏を支持することは考え難いからだ。

つまり、河野氏が勝つためには1回目の投票で過半数を得る必要があるのではないか。一方、岸田氏は、決選投票に持ち込めば、自ら率いる岸田派だけでなく、細田派、竹下派、石原派、谷垣グループなどの支持を集め、優位に立つことが予想される。いずれにせよ、次期自民党総裁、そして内閣総理大臣に近いのは、岸田、河野両氏だろう。

 

経済政策:全員が「大きな政府」を志向

各候補の政策を見ると、経済政策面においては、積極的な財政政策、格差の是正に焦点が当てられている(図表3)。また、成長戦略については、成長分野への投資が重視された。「新自由主義の転換」を明確に掲げた岸田氏以外の候補も、概ね同様の傾向と言えるのではないか。つまり、政策による選択肢は広くない。

 

これは、新型コロナ禍の影響も大きいと考えられるが、自民党の政策がリベラル化し、「大きな政府」を指向していることを示すだろう。保守的、新自由主義的と評される安倍前首相は、野党の主張を取り込んで具体化することで、経済政策の争点を小さくして政権の長期化に成功した。

今回の候補は概ね安倍路線を踏襲、安全保障、憲法、皇位継承などで保守色を打ち出しつつ、「小さな政府」的経済政策とは距離を置いている。保守に軸足を置く高市早苗前総務相も、財政拡大を経済政策の柱に据えた。リベラル色の強い野田聖子自民党幹事長代行は、財政・金融政策の正常化を掲げてきたが、政策全般は「大きな政府」指向だ。

もっとも、1990年代に入って日本の公的債務対GDP比率は急速に上昇、主要国で最も高い水準に達したにも関わらず、全要素生産性(TFP)は趨勢的に低下している(図表4)。これは、MMTに従ってさらに国債発行額を増やしても、生産性は改善しなことを意味するのではないか。

財政支出の拡大が持続的成長に至る道筋について、総裁選での論戦が回答を示すことに期待しなければならない。

 

市場を左右する鍵:誰が首相かではなく・・・

20世紀に入って以降、日本株が世界指数をアウトパフォームしたのは、メガバンクの再編が進んだ2002年、郵政民営化法が成立した2005年、アベノミクスへの期待が高まった2012~15年だ(図表5)。いずれも政治的イベントに反応した。しかし、改革への期待は長続きせず、それ以外の期間、日本株のパフォーマンスは世界に勝ていない。

 

9月3日に菅首相が自民党総裁選への立候補見送りの意向を表明して以来、東京市場は急騰局面になった。人心の一新や新たな政策に期待した動きだろう。しかしながら、過去の例を見れば、期待だけでは相場は長続きしない。

新型コロナ感染第5波は収束しつつあり、ワクチン接種も政治判断の時期を越え行政のルーティーンプロセスに乗った。これは、”With Corona”の下、2022年の日本経済正常化を予感させる動きだ。そうしたなか、日本株が世界市場をアウトパフォームするための鍵は、次の首相が誰かではなく、次の首相が具体的に何をするのかが握っているだろう。

市川 眞一
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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