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「岸田政権」の政策とインパクト
市川 眞一
2021/10/01

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概要

岸田文雄新自民党総裁は、10月4日、第100代内閣総理大臣に就任する。財政規律重視と見られることの多い岸田氏だが、総裁選で訴えた経済政策は所得の再分配を重視した「大きな政府」だった。一方、成長戦略についてはかならずしも明確ではない。11月の総選挙へ向け与党を取り巻く政治環境は改善したが、選挙が終われば成長戦略を問われることになるだろう。



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成長戦略の実像:総選挙後を待つ必要あり

今回の自民党総裁選に際して、マーケット内では、河野太郎内閣府特命担当相を「改革派」、岸田新総裁については「財政規律重視派」との評価があったようだ。しかし、河野大臣については、防衛相時代のイージスアショアの突然の導入中止、ワクチン担当相としての職域接種を巡る混乱などから、政界ではその破壊力を指摘する声が多い。改革には政府の組織を総動員し、与党をまとめ、関係者を説得するプロセスが求められる。その点に対する不安が、河野大臣の得票が予想以上に伸びなかった理由なのではないか。

岸田総裁は、「新自由主義の転換」を軸に所得の再分配重視を経済政策の柱に据えた。これは、「大きな政府」的発想と言える。さらに、数十兆円規模の経済対策を主張していることからも、財政規律を重視しているわけではないようだ。新型コロナ禍の下、こうした財政により経済を支える姿勢は、自民党内におけるコンセンサスに近いのではないか。

一方、河野大臣を含め、総裁選に立候補した4人に共通しているのは、成長戦略が明確でなかったことだ。岸田総裁の「中所得者向け分配」も具体策は明らかではない。

2012年12月26日、第2次安倍政権が発足した際、「機動的な財政政策」、「大胆な金融政策」と共に、「民間投資を促す成長戦略」が3本の矢としてアベノミクスの主要部分を構成していた。具体策が列記された『日本再興戦略2013』には、「雇用維持型から労働移動支援型への政策転換」、「産業の新陳代謝の促進」など、従来の政策的常識から見て大胆な構造改革策を含む施策が盛り込まれている。

もっとも、2013年1月22日の『政府・日銀共同声明』における日銀のインフレターゲッティング採用、そして黒田東彦総裁の下での量的・質的緩和、即ち金融政策で円高の修正が進み、株価は上昇した。結果として、安倍政権は軸足を経済から外交・安全保障へシフト、成長戦略は概ね店晒しの状況になったと言えるだろう。当初、海外の投資家は日本の変化に期待、2013~15年までの3年間で日本株を18兆7,505億円買い越した。しかし、2016~20年は20兆7,358億円の売り越しとなっている。期待の剥落が背景ではないか。

世界経済が新型コロナ禍による特殊な状況にあり、日本では数週間後に総選挙が行われる。成長戦略は少なくとも一部の国民や企業の痛みを伴うため、自民党総裁選では敢えて議論しなかった可能性は否定できない。

ただし、人口減少・高齢化が進むなかで、日本の生産性はトレンドとして低下を続けてきた。明確な成長戦略を欠き、財政・金融政策への依存を続けても、日本人を含む世界の投資家が日本市場に興味を持つことは考え難い。

従って、今回の自民党総裁選の結果により、マーケットが大きく動くことはないだろう。11月に予定される総選挙が終わり、2022年度予算案の編成などを通じて新政権が何をしようとするのか、それを見極める状況が続くと想定される。

 

総選挙のシナリオ:自民党には追い風が吹き始めた

10月4日に新内閣が発足した後、衆参両院において代表質問が行われ、その後、「岸田首相」は衆議院を解散するだろう。総選挙の投開票日は11月7日、もしくは14日になりそうだ。つまり、新内閣は日常業務以外の仕事をすることなく実質的に選挙戦へ突入する。これは、自民党にとって有利な条件だろう。有権者は新たな首相、内閣に対し期待を持つ時期であり、自民党内も選挙へ向け結束し易いからだ。

ちなみに、第2次政権発足以降、報道各社の世論調査において、自民党は高い支持率を維持してきた(図表2)。背景は、3年3ヶ月に続いた旧民主党政権と比べた安定感と見られる。今年に入って菅内閣の支持率は急低下したが、自民党の支持率は概ね安定していた。

従って、菅内閣が続いたとしても、今回の総選挙で政権交代の可能性は低かったと考えられる。さらに、菅首相が、自ら退任の意向を表明、総裁選を行ったことで、総選挙に向け同党を取り巻く政治環境は大きく改善した可能性が強い。

また、新型コロナ感染第5波が収束しつつあることも、政権与党にとっては追い風だろう。ワクチン接種は急速に進み、15歳以上の2回接種率は米国に並んだ。総選挙の時期には、接種率は80%程度に達すると見られる(図表3)。

2017年10月の総選挙において、自民党は定数465議席中284議席を獲得した。この水準に達するのは難しいとしても、250~260議席程度を確保、単独過半数の233議席を大きく上回る可能性が高まっている。

 

総選挙後:生産性なき分配は資本利益率を低下させる

「岸田首相」の下、自民党が総選挙で250議席程度を確保すれば、当面、政治は安定するだろう。さらに、新型コロナ向け軽症、中等症対象の経口治療薬が相次いで承認される見込みだ(図表4)。2022年に関しては、”with Corona”ではあるが、本格的な経済活動の再開が期待される。

もっとも、日本の経済政策は財政・金融政策依存が続いており、自民党総裁選を通じて生産性向上へ向けた具体的な政策はかならずしも示されなかった。総選挙後、岸田政権がどのようなバランスで経済政策を実行しようとするのか、注目されるところである。生産性の向上がなければ、中所得層への分配強化は資本利益率の低下によるしかない。それでは、日本株が世界の投資家を惹き付けるのは難しいだろう。

 

市川 眞一
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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