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日銀が見逃す3つのリスク
市川 眞一
2022/01/21

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概要

1月17、18日の政策決定会合に合わせて発表された年4回の『経済・物価情勢の展望(展望レポート)』では、2022、23年度のコア消費者物価上昇率が小幅上方修正された。ただし、日銀はインフレよりもデフレ再燃のリスクを懸念しており、国際的な経済環境変化の可能性には無頓着のようだ。結果として、日本経済にはインフレ圧力が高まる3つのリスクがあるのではないか。



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消費者物価:エネルギー、通信を除く寄与度は+0.9pt

展望レポートの物価に関する部分は、今後、エネルギー価格の高騰と携帯電話通信料引き下げの影響が共に剥落するなか、予想物価の上昇を背景とした需給ギャップの縮小により、2022、23年度のコア消費者物価は「1%程度の上昇率が続く」・・・と要約できるだろう。政策委員による物価見通しの中央値は、2022、23年度とも1.1%の上昇だった。

昨年11月の消費者物価上昇率を見ると、総合指数が前年同月比0.6%、生鮮食品を除くコア指数が同0.5%だった。コア指数への寄与度は、エネルギーが+1.2ポイント、通信が▲1.6ポイントであり、確かにこの2つの影響は大きい(図表1)。

もっとも、エネルギー及び通信以外の寄与度が+0.9ポイントに達していることに注目すべきだろう。特殊要因を除いても物価は着実に上昇しつつあると考えられるからだ。

通信料金に関しては、菅義偉前首相の強い意向により、実質的に政策的な引き下げが行われた。その影響は、日銀が指摘するように2022年度に入ると概ね解消される。

一方、エネルギー、その他の国際商品市況については、上昇が続く可能性は否定できない。新型コロナ禍からの回復局面における一過性の要因以上に、米中対立の下での資源争奪戦の影響が強まっており、コモディティ価格は全般に上昇基調だ(図表2)。さらに、地球温暖化抑止への取り組みにより、構造的な需要先細りを懸念する化石燃料事業者は投資を躊躇うだろう。もっとも、当面は化石燃料に依存せざるを得ないため、需要は高止まりが予想され、結果としてエネルギー価格には上昇圧力が生じ易い。この点は、日銀の物価見通しに対する第1のリスクと言える。

 

後手に回る日銀:リスクを意識した資産運用の重要性

日銀は、予想物価水準の高まりについて、需要を刺激する要因と想定している。しかしながら、硬直的な雇用制度の下、賃金上昇が見込めない日本の場合、インフレ期待が高まると、消費者はむしろ生活防衛のために財布の紐を締める可能性が強い。この縮小均衡シナリオは第2のリスクだろう。

また、想定外のインフレ下で日銀が短兵急に出口戦略を採らざるを得ない一方、政府が新規財源債の発行を縮減できず、国債市況が急激に悪化する可能性がある。これは第3のリスクだ。日銀が長短金利操作を採用していることで、期待インフレ率の高まりや利上げ観測を事前に織り込み、市場はイールドカーブを自律的に調整するこができない。結果として国債価格が急落し、予想外の円安により物価が一段と押し上げられるリスクがあるのではないか。

そうした3つのリスクに関し、日銀は「フォワード・ルッキング」な姿勢で十分に説明をしているとは言い難い。むしろ、日銀自身が適合的期待形成によって後手に回っている印象だ。

資産運用においては、蓋然性のあるリスクに着目、インフレや円安に備え、国際分散投資を進める必要があるだろう。


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市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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