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ロシア、ウクライナに格下げの波
梅澤 利文
2022/02/28

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概要

ロシアのウクライナに対する軍事侵攻を受け、主要格付け会社がロシアとウクライナの格下げもしくは格下げ方向で検討するネガティブウォッチを付与しました。この背景として、ロシアについては主に経済制裁による経済への影響が指摘され、ウクライナの場合、対外流動性不足が指摘されています。なお、戦闘が長期化した場合にはさらなる格下げも示唆されています。



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ロシアとウクライナ:ロシアの軍事侵攻を受け格下げなどが発表

ロシアのウクライナに対する軍事侵攻を開始した翌日(2022年2月25日)、主要な格付け会社はロシアとウクライナの格下げなどを揃って発表しました(図表1参照)。

ムーディーズ・インベスターズ・サービス(ムーディーズ)は格付けは据え置きましたが、格下げ方向で検討するネガティブウォッチをロシア、ウクライナに対して付与しました。S&Pグローバル・レーティング(S&P)はロシア、ウクライナの長期債格付けを自国通貨建て、外貨建て共に引き下げました。フィッチ・レーティングス(フィッチ)はウクライナの格下げのみ発表しました。

格付け会社により、若干内容は異なるが、一様に格下げ方向

まず、主要格付け会社のロシアとウクライナに対するアクションを振り返ります。

ムーディーズはロシアとウクライナの格付けは据置いた一方で、ネガティブウォッチを付与しました。今後の展開を踏まえ格下げ方向で検討する構えですが、声明から通常のネガティブウォッチよりも早期に判断を示す意向と見られます。

S&Pはロシアとウクライナに対して格下げを実施したうえに、ネガティブウォッチを付与し、近い将来にさらなる格下げの可能性があることを示唆しています。なお、S&Pは02年からロシアの外貨建て長期債格付けを自国通貨建て長期債格付けより低く格付けする傾向があります。外貨の方が資金調達が難しいことがあるためと見られます。

ロシアはアジア通貨危機の余波を受け、98年8月17日に対外債務の90日間支払い停止等を宣言し、その結果、ルーブル暴落、資本流出などロシア財政危機に見舞われました。これを受け、S&Pはロシアの外貨建長期債を99年1月に選択的債務不履行(デフォルト、SD)とした経緯があります。

フィッチはウクライナの格下げを発表しました。ただ、25日時点ではロシアの格付けについて格下げはなく、ネガティブウォッチも発表していません。

ロシアとウクライナの外貨建て国債市場の動向を見ると、軍事侵攻時点で価格は大幅に下落(利回りは上昇)しています(図表2参照)。両国の債券価格の水準は恐らく現状の格付けより低い水準を織り込んでいると見られます。同格付けの他国の債券は両国の価格を概ね上回る水準で取引されると見られるからです。

次に、格付け変更の理由を振り返ると、ロシアについては、25日時点で発表されている西側諸国からの経済制裁により信用リスクが悪化したと指摘しています。例えば、S&Pはロシアの銀行に対する(25日までの)経済制裁でも、すでに国際的な取引の仲介機能が損なわれると判断しています。ロシアをネガティブウォッチとしている背景は、戦闘が長期化した場合のロシア経済や財政への影響、西側からの追加経済制裁などを上げています。一方で、ロシアの外貨準備高や政府系ファンドは巨額で、ある程度ショックを和らげる可能性があると指摘しています。

ところが、このロシアに対する評価は週末に大きく崩れたと見られます。ロシアの一部銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除することや、ロシア中央銀行が外貨準備を利用するのを阻止する制限措置が発表されたからです。これまでSWIFTからの排除は影響が大きいとしてドイツやイタリアなど欧州勢が反対していましたが、方針を転換しました。また、ロシアの外貨準備高(含金)は6300億ドル程度と巨額ですが、使用が制限されるとすれば絵に描いた餅となる可能性もあります。SWIFTにせよ、外貨準備への制限にせよ詳しい内容は現時点で不明なため確認は必要ですが、ここに至って効果の無い制裁を発表するとも考えにくく、ロシアについてはさらなる格下げなどの可能性が高まったと見られます。

なお、28日の東京市場でルーブルは25日の1ドル=84ルーブル前後から、一時3割程度も暴落しました。SWIFTからの排除など経済制裁を反映しての動きとなっています。

一方、ウクライナの格下げは、ウクライナはロシアの軍事侵攻前から対外債務の返済に苦しんでいたうえ、今回の軍事侵攻で対外債務返済がさらに厳しくなるとの懸念が背景です。したがってウクライナの場合も戦闘が激化、長期化すれば債務返済リスクはいっそう高まると見られます。

ただ、ウクライナに対しては米国、欧州連合(EU)、英国、日本などから経済支援が表明されているうえ、国際通貨基金(IMF)とはスタンドバイ取極(SBA)が合意されており、22年6月までの期限延長は確保されています。ネガティブウォッチの期間において、ウクライナのプラス面とマイナス面が検討される運びです。

ロシアとウクライナの格付けは、今後の戦闘動向次第ながら、これまでに発表された制裁内容などから判断すると、格付けの検討により、ロシアに対してさらに厳しい判断が下される可能性も考えられます。


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梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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